★イタリア不良債権が顕在化---1999年
第一弾はイタリア動産公社(IMl)とロンバルディア貯蓄銀行(カリプロ)という大手銀行同土の株式持ち合い。両行は九一年に合併する構想だったが、社会党のクラクシ元首相の反対にあい計画がとん挫したこともあった。次いてクレディト・イタリアーノやトリノ・サシバオロ銀行が有力行を買収するなど、約一千にものほる銀行の再編に火が付き始めている。ナポリ銀行は今年三月末、三兆千五百五十億リラの大赤字を計上、政府は金融危機を回避するため同行の救済に踏み切った。ある意味でこの一件も「企業や銀行が政党支配のくびさから抜けた証拠」(銀行アナリスト)といえる。政党支配の終えんを機に中央銀行が同行に対し厳しい検査を実施、隠れた不良債権を顕在化させてしまったからだ。炭化水素公社(ENl)は不採算部門を切り捨てた結果、九四年十二月期に約二十五年ぶりの配当を実施、昨年秋には株式上場した。キリスト教民主党は七○年代後半から、社会党と連立内閣を作る際に企業の利権を配分する動きに出ており、ENlには社会党が総裁を送り込んでいた。各政党はそれぞれ息のかかった銀行や国営企業の徒業員の雇用を守ることで、票や活動資金を手にしてきた。経営が悪化すると、国の補助金を投入し、市場原理が決して機能しないようにした。フィアットなど民間企業が買収に乗り出そうとすると、ほんの1握りの「企業利権マフィア」が口利きに回った。これが九二年以降イタリア全土に吹き荒れた政財界の構造汚職事件につながつた。
透明で開かれた経営
二年前にIBMヨーロッパからアリタリア航空再建のために同社会長に就任したレナ−ト・リベルソ氏はこの春、突然辞任した。人員削減など経営合理化に大なたを振るった結果、労働組合や親会社lBIの幹部が反発したからだった。政党支配が強いころであれぱ、合理化計画そのものが政党の手によって闇(やみ)に葬られていたかもしれない。しかし、リベルソ氏が対峠(たいじ)したのは徒業貝であり、親会社だった。経営陣の戦う相手がようやく変わってきた。イタリアの次世代を担う経営者たちは国際競争を考える上で、一握りの政治家、企業家によるマフィア的な経済に限界を見る。フィアットのオーナー、ジョバシニ・アニエリ名誉会長の甥で、将来のトッブと目されるジョバンニ・アルペルト・アニエリ氏(32)は最近、新聞のインタビューの中て、透明で開かれた市場重視の経営を追求する考えを示唆した。(ミラノ=新藤政史)
伊の腐敗追放 成功なら欧州の主流国に 読売夕刊 9−6−9(10)
ローマ都心のさびれた一角に、ガラスとコンクリートの廃屋がある。かつて「シティー・エア・ターミナル」の名で知られた施設の巨大な車庫だ。ローマ都心と空港を結ぶ鉄道駅として、一九九〇年ワールドカップの観戦客の足の便を図るはずだった。建設会社やその代理店、関係政治家はエア・ターミナル計画で一もうけした。しかし立地が悪かった。都心をめぐる通勤電車の主要路線に近いのに、路線に接続していなかったのだ。遺棄されたターミナルは、イタリアの金銭欲と無駄を象徴する遺物として建つている。そうしたあまたの遺物は、イタリアを経済的政治的破滅の瀬戸際まで追い込んだ、利益誘導と汚職の時代、イタリア人いうところの〃タンジェントポリ(わいろ都市)〃の遺産だ。そして、ミラノ地検の大規模な汚職捜査でキリスト教民主党と社会党という最も有力な二大与党が崩壊、最終的には、政治と国営企業を支配していた階級全体が消滅したのである。それはさながら革命だった。イタリアはこうした状況からはい上がり、他の欧州諸国同様、右と左の二大ブロックが交代で政権を担うシステムへ向かっているとされる。新時代の象徴が、共産党の後継政党、左翼民主党の昨年の総選挙での勝利というわけだ。中道左翼連合は昨年五月発足した。最優先課題は欧州通貨同盟の参加条件を満たし、無秩序の極みだった公共財政を整えることだった。だが変化は起きなかった。ブローディ政権は弱体かつ優柔不断で以前の諸政権同様、適当な妥協こ傾きがちであることを示した。地方では権力のための権力をありがたがる古い心性が復活した。反革命が進行しているのだ。逆行ムードの明らかな例がある。フィアットのロミーティ会長が四月、ヤミ政治献金問題で、禁固十八か月の執行猶予付き判決を受けた際の反応だ。二、三年前なら、これは国内最大の民間企業フィアットと周囲の関係者すべてを根本かろ揺るがしただろう。だが今年、波紋の広がりはほとんどなかった。会長辞任を迫る圧力は毛ほどもなく、それどころか、トリノのそうそうたる企業家七百人が、ロミーティ氏潔白への確信を表明するため、一堂に会したのである。全国の支配的エリートの立場も同様だ。こうした態度を最もよく暴露したのは、企業家出身の政治家ベルルスコー二元首相の言葉だ。彼は検察が発掘した事実に疑いははさまず、解釈を問題とする。元首相はいう。「判決は遺憾である。多くの企業にとって、営業を続けるためにはこうした献金が必要なことを私は知っているからだ」こうした態度こそ、過去五十年間、イタリアがまともに機能する近代国家になることを妨げてきたのである。国家も法も最高権力ではないのだから、これをすり抜けてもかまわないとする心性、検察が(元首相所有の)ピジネス帝国「フィニンベスト」を調べ回って、不正の証拠を暴さ出しても、ベルルスコー二氏が平気で政略を弄していられた心性なのだ。そして何より、この心性こそが、関係者らが、汚職捜査の検事たちを、ごう慢かつ政治的動機を持ったトラブルメーカーとして、黙殺することを可能にしてきたのだ。ある地方では、官僚が法に触れて逮捕されることを恐れるあまり、行政機構が機能を停止してしまった。結果は、民間企業と政治家の裏取引がさらに盛んになっただけだった。他の地方では、官民癒着は、以前ほど大胆ではないだけで、依然健在だ。有力週刊誌エスプレッソにある論者はこう書いた。「企業家や利益グルーブにとっては中道左翼政権の方が都合がいい。(保守より)安く買収できるからだ」と。たとえば、緑の党出身の市長の支持を受けた二〇〇四年五輪のローマ招致運動だ。緑の党は伝統的に、環境上の理由でこの種の大騷ぎこは反対だが、今回は事実上、党全体が招致に賛成した。明らかに、五輪組織委のわずかばかりの要職と引き換えに、である。しかし、反革命を押しとどめる可能性はまだある。武器は改憲だ。超党派の議会委員会は、改憲による行政府の権限強化や選挙制度の改正に取り組んでいる。うまくいけば、次期政権は、キャスチングボートを握る小党のえじきなとならずに、改革継続へ十分な権限を持てるかもしれない。今後数か月、事態がうまく進めば、イタリアはまもなく、通貨統合などすべてにおいて、欧州の主流に加わる立場に立てる。さもなければ、我々は、腐敗時代の再来を、そして役に立たない鉄道駅をさらにたくさん、目にするはめになるだろう。
---経済工学リサーチより引用
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