昨日← 05/01/08 (土)翌日

【私的めもらんだむ】
 正月明け、まだ仕事が入らぬ。明日は叔父の本葬、何かと出費も覚悟している。葬祭場周辺を地図で調べた。それで思い出したのが同業社長Oのことだ。

 Oはここ地元のウラ世界ではちょっとは名の知れた黒幕だった。今はすでに亡くなったか、いい按配の老人になっているだろう。消息が分からないのは、とうに行方不明になっているからだ。教育委員会の会長夫人と手に手を取って行方を晦ましたのだった。教育とはおよそ縁遠いはずのOが、よりによって教育委員会の会長夫人と結びつくとは予想もつかなかった。よほど相手の会長夫人が美人だったに違いない。女癖の悪さでは以前から定評があった。電車で乗り合わせた女性を口説いたら、何と近所の女だったと大笑いしていたO・・・色白でどこか都会的な雰囲気をもっていた。しかし、普通の人々とは決定的に違う体の特徴があった。小指が無いのだ。Oはそれを隠そうともしなかった。奥さんも色白で、小太りのやはり都会的なセンスを漂わせていた。
 私は一時期、そのOの家に寝泊りしていた。Oは大手建設会社の下請けを任せられ、私はその応援に来ていたのだ。ほか4名ほどの職人と共に寝泊りし、そこから現場に通っていた。その中に、私の知ったWという近県からの職人も混じっていた。いつもガラガラと大口を開いて笑う、大柄な人物のWは、地元同業で知らぬ者がいないほどの暴れんぼうで通っていた。かつては、というべきか、無法松みたいな野放図さで、酒を飲んでは大暴れして周りを畏怖させたという。監督の前で堂々と酒をあおるだけでなく、いったん怒ったら、ラッパ飲みしているその一升瓶が飛んでくる、のだそうだ。私はそのWによく可愛がられていた。周囲の者は評判を聞いているから、あまりWに話しかけることはなかったが、私は気軽に声をかけていた。Wと居ると、それだけで悩み事も吹っ飛んでしまうような大らかさを感じるのだ。
 ある日、そのWから意外な告白を聞いた。世間はオレをマッポと云って怖がるが、ホントはね、ひどく臆病なんだ。映画館に入っても、いつも最後部の座席で縮こまっている。人の視線が怖いんだ。いつも怯えている。誰かを傷付けはしないかとビクビクしながら、それに耐えられなくって大酒を飲む。そして際限なく暴れる。情けないクズなんだ。
 そんな時のWは寂しそうだった。そして、信じられなかった。ちなみにマッポとは、どうしようもない暴れ者のことで、Wの住む県下では三人のマッポと称して、そのうちの一人なのだった。むろん私がいる間、Wは何らトラブルを起こすことはなかった。Wの存在そのものが無言の圧力となって、仕事も順調に進み、契約期間中の仕事を終えて私は帰った。

 かつて私が寝泊りしていたOの家が、どうやら葬祭場の付近らしいのだ。あれから街並みもすっかり変貌し、今ごろ探しても皆目見当もつかないだろう。



音も入れられるようだが、今回は無し
タイトルは「無題0501」

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