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叔父の本葬・・・行くんじゃなかった・・・誰だおめえは?・・・ハハハ、オレだよオレ・・・何だ、その髭は?おまえになんて来てもらいたくないんだ。みんな、こんな奴を泊まらせるんじゃねえぞ。焼香済ませたら早く帰れ・・・オレが知らないオレのことまで、知ってる親戚はやはり鬼だった。凍てつく田舎道をとぼとぼと・・・・タクシーで夜の繁華街へ・・・何処でもいいから居酒屋で降ろしてくれ・・・お客さん、変なのうろついているから気をつけてくださいよ・・・ありがとう・・・東北のシカゴと呼ばれている危ない街で、それより危ない私の心が酒を飲む。もうどうにでもなれ・・・誰か私を殺してくれないか?
「よく来たな。寒かったべ、早くこっちに来てコタツにあたれ」 子供の頃、両親に連れられて訪れた親戚の家で、自分によく似た懐かしい顔が、今は鬼の形相で恫喝している。早く帰れと・・・底意地の悪い鬼たちが・・・二度と来るな、と・・・後妻側の叔父や叔母たちが、対立しているはずの先妻側の叔父叔母たちまで、一緒になって・・・私を吊るし上げて罵っている。父や母に苦労かけて、おまえは殺したんだと・・・
遺言
叔父さま叔母さま、生前中は至らぬ私を罵っていただき、まっこと感謝に絶えません。私の葬儀にはどうか辞退して頂きたく、ここに遺言をしたためておく次第です。間違っても焼香なぞしてくれませぬよう、香典もけっこうです。妹に、弟に、鬼たちを決して家に入れるな、鬼は外・・・オレに塔婆は要らぬ。オヤジとオフクロの骨壷に、オレの骨を入れてくれるだけでいい。猫たちは山奥の広い野原に放ってくれ。猫も俺もそれで自由になる。冥土まで鬼も追いかけては来ないだろう。もはや死ぬことだけがオレの望むところであり、安らぎだ。それは同時にオレの新たな旅立ちにもなる。父ちゃん母ちゃん、待っててくれ。もうすぐオレもそっちに行くよ。
がらんとした心の空洞にぽたんぽたんと滴る音は、オレの涙か冬の旅路に・・・
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