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13時
スズメがちゅんちゅん鳴いている、私はボウ〜として庭先を眺めている。子猫も縁側でスズメを見上げている。長閑な昼下がりのそんな風景の中で、私は過去を引きずったまま飲んだくれている。いいかげん酒を止めねえと命が持たねえぞ・・・この堕落・・・を承知の気だるさに・・・いまの私は安易に浸っている。刑務所で転落の詩集を書き綴っていたというSK、父親を呪い、母親の愛を求めながら叶わず、その隙間を埋めるかのように貪ってきたもの・・・そんな心の無残を曝け出していた男の、虚ろ・・・眼も心も・・・今の私に似ている。嘔吐を催すような極道修羅場の世界、心底恐怖を味わい放ってきた赤裸々な地獄絵図・・・自分でなくて良かった他人事で聞いていた若い自分・・・
混雑する夜の繁華街で、背後から私を襲ったKM、倒れた私に「早く奴を追いかけろ」と群集が急き立て「いいんだ」と制止した、あの冷静さは何だったのだろう。襲われた理由は分かっていた。私より数歳年下のAK、妙に気が合った女だった。そのAKの守護神のようなKM、彼女を守りたい一心の襲撃だったろう。キレると日本刀を持ち出す危ないKMではあったが、何故か私は親近感を持っていた。「あの時はちょっと驚いたぜ」と、偶然席を隣にした居酒屋で呟く私に、ニヤリ笑って見せたKMの不敵・・・似合ってた。
日本刀と云えばKAのオヤジを思い出す。私がKMとは別の一件で頭を叩き割られたばかりの時、そのオヤジはやって来た。他人事のように笑って怪我の由来を話す私に、KAは突然腕まくりをして腕の傷を見せたものだった。「これは強盗と格闘したときの傷だ。野郎は出刃を持っていてね、こんな傷つくっちゃったよ」 アハハハ・・・高笑いする珍客と私の、どこか野放図な懐かしい光景だ。
しばらくして、またKAが細長い包みを手にしてやって来た。「いいもの見せてやるよ」と出したのが白鞘の日本刀だった。「長州藩のもので、ちょっと刃が欠けているが40万で譲るよ」 今日のような晴れた日の昼下がり、私は波紋に映る反射光の美しさに見とれた。ズシリと重い日本刀の存在感を手にしながら、おそらく人を切ったのであろう刀の傷を見たものだった。明治維新を引き寄せたような感覚・・・しかし、あいにくこの話は破談した。何故ならおふくろが傍らで眼を丸くしていたから・・・冗談は止めてちょうだい。うちの息子は普通じゃないんだから・・・え?普通じゃないって、おふくろそれはあんまりだ・・・
それから後も日本刀の話は尾を引いた。「日本刀は蔵にもっと眠ってるんだ」 大きな屋敷に案内され、次々と運ばれる日本刀・・・すげえ・・・驚く私に得意げのKAが抜刀して見せる日本刀の数々・・・一本数千万の一物に「こうして見せるだけでも大変なんだ。空気に触れると錆びるからね」 何でも終戦直後に農家を回って買い集めたとか・・・云ってた。そのオヤジKAも今は亡い。
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