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性犯罪が横行してきているようだ。今日のニュースだけでも、集団強姦罪を初適用、札幌の暴力団員ら3人現行犯逮捕、 修習中に裁判所女子トイレに侵入 容疑の司法修習生逮捕 、と続々と出てくる。私も人間ではあるが、同時に生物学上のオスに違いはない。それだけに性衝動を抑えられない男どもの心理は分かるつもりだ。しかし、当然のことながら隠しカメラで撮影したり、強姦事件の加害者に寛大になれるはずもない。私の若い頃は身近に性犯罪が頻発し、泣き寝入りする例が大半だった。そんな時、どういうわけか私が相談相手に選ばれることがあった。誰にも云えない、云っても相手にされない、家族でさえ「虫に刺されたと思って諦めろ」ぐらいの話になる。冗談ではない。泣きながら訴える女性を前に、私は「諦めろ」などとは決して云えない。
一応加害者と目される相手の言い分も訊く。「何云ってるんですか?私がそんなことするわけないじゃないですか」---じゃ、何故彼女は泣いているのか?あんたに強引にホテルに連れ込まれたと云ってるんだが---「冗談じゃない、そんなこと知りませんよ」 ここで強姦魔は大抵馬脚を現す。例外なく笑うのだ。潔白なら逆に激怒するはずなのだ。冗談じゃないと云いたいのはこっちの方だ。この時点で私は話を打ち切って、しかるべき行動をとる。すると相手は泣いて謝る。若かった私はそれが改心の証と早合点してしまう。最後に「カネで解決しようと思うな。みなさん、そういうことでいいですね?」 私は家族に納得を促し、後のことは家族に任せて去る。私の出番は終わったというわけだ。
ところがだ。私が甘かったと、後で気付く大人社会の悪しき慣習が続いていくのだ。警察には訴えない、ためのカネが相手側から用意され、事件はそれこそ最初から何も起こらなかったことにされる。私がそれを知ったとき、その怒りの持っていき場を失う。これが大人社会の常識なのかと、みんな偽善者だと、秩序なんて糞くらえと・・・今にして若かった私の甘さを嘆き、かつそんな自分を懐かしんでいる。これは一種のナルシストの変形に違いない。
この不況の中、繁盛している会社がある。銀行で会ったら札束を自慢げに見せられた、という話も聞いた。貧乏人の僻みではないが、嫌な話である。「あの時、私が警察に訴えていれば、おまえの会社なんて無かったんだぞ」とも云いたくなる。なんとなれば、あの時の強姦魔こそ、その会社の社長だったからだ。そして、その被害者は未成年者であった。その社長はすでに亡くなり、息子たちが会社を継いではいるが、無関係とは云わせない。何故なら、社長の長男もあの場に居合わせたからだ。その息子たちも今ではりっぱな(?)な大人となり、会社を繁盛させている。だが、いい気になってほしくない。カネはそれを必要以上に持つ者を傲慢にさせる。それはある意味で犯罪的でもある。あの頃の私の行為を忌むべき暴力だと批判するなら、おまえたちのやったことはそれ以上に陰険で悪質な経済暴力ではなかったか。
「オレに近寄ると危ないぜ」と粋がってみせていた若い自分のような・・・今の私にはあの頃の触っただけで火傷するような直情的な熱は無い。だが、心の奥底からじわじわと伝わってくる別種の熱も感じ始めている。その熱は日本が軍国化する空気に頗る反応している。多分、その熱は軍国主義という国民を誑かす強姦魔に対しての義憤という熱の滾りであろうと・・・思うのだ。
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13時
そんな私を「あれはヤクザだから気をつけたほうがいいよ」と言いふらしていた近所のオヤジKOがいた。ある夏の暑い日、隣の家に面した部屋で横になっていた時のことだ。どうやらヤクザというのは私のことらしかった。庭先で話されるオヤジのその声は、一部始終筒抜けになっていた。云う奴には云わせておけ、とは思ったが、我慢がならないのはかつては私に助けを求めたオヤジだったことだ。やはり近所の会社社長を名指しで「土地を全て騙し盗られた」と云うのだ。訊けば訊くほどただならぬ犯罪性を嗅ぎ取った私は、単身その会社の社長宅に乗り込んだ。「出て来い」と怒鳴る私に家は静まり返っていた。私の声は届いたはずだ。名乗りをあげたこともあって、何らかのアクションはしてくるだろうとその日は引き上げた。背後にその筋のゴロツキが控えていたことも含め、この社長の悪しき噂は耳にしていた。地元市街地の一等地に、どでかい黒いビルを建てたオーナーでもあった。私なりにオヤジKOの話の真意を調べたが、嘘はなかった。そのうちKOの妹が某野党の地元政治家ITに相談し、一気に解決したことを伝え聞いた。庶民の味方だというこのITの評判も聞いていた。これで一件落着したと、思って私は手を引いた。それからKOは頻繁に私を訪れるようになった。そんなある日「さっき奴のところに電話してやった」と笑ってやってきた。訊けば「警察が調べているから気をつけな、と匿名の電話をしてやった」と喜んでいる。「ざまあみろ」と笑うKOに私がキレた。「土地が戻ったというのに何を血迷ったことをするんだ。卑怯な真似はするな」・・・KOは逃げるように帰ったが・・・
庭先で私のことを話すKOの言葉には、そんな背景があったのだ。ああ、オレはついに世間様からヤクザ呼ばわりされるように成り下がったかと、落胆してもいた。KOの告げ口は留まるところを知らず、馴染みの飲み屋の女将から「あんたのことヤクザだって言いふらしている人がいたよ」と聞くに及んでいた。その言いふらし野郎の容貌を問えば、まさしくKOに酷似した。こうして世間様への根強い不信感にさらに拍車がかかった。それでも私は沈黙を続けた。私を避けていたKOに、ある夜、繁華街のスナックで偶然に会う場面が訪れた。KOは最初ビックリしたようだったが「やあ、偶然だね」と親しげに挨拶してきた。私はつい「オレも偶然にヤクザだという、オレそっくりの噂話を聞いたよ」と云ってしまった。とたんにKOの持つグラスが震えだし酒が零れた。私は居たたまれず「地震かな?怖いから、オレ先に帰るよ」と席を立った。
それからKOは再び、頻繁に私を訪れるようになった。しかし、その様子は以前とは一変していた。私が何か動作し、云おうとするたびに、KOの顔面がピクピク小刻みに痙攣した。そのオヤジKOもすでに亡くなった。かわいそうな人だと思う。気の毒でもあった。その一方では私への噂が勝手に一人歩きし、悪評となって核分裂のように拡大していったことを・・・やがて嫌と言うほど思い知ることになる。
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16時
汚物にまみれたオレの悪評・・・忘れ物ですよ・・・いや、それは私のではありません・・・知らん振りをしても無駄というもの、ちゃんとアナタの名札が付いているんですから・・・それは勝手に誰かが付けたものです。捨ててください・・・駄目です、この名札はアナタが死ぬまで、いや、アナタの死後も、この地球が滅びるまで外れることはないのです・・・放射能みたいな話だな・・・冗談ではありません、この忘れ物はアナタの死後も悪評を放射しつづけ、昔、この日本にこういうバカがいたという証拠となるのです・・・それこそ冗談じゃない、そんなバカなことがあってたまるものか・・・たまるのです、そうした反抗的な態度も加算され悪評となって溜まっていくのです・・・偽善者め失せろ・・・ほらほら正体を現しましたね、それも反社会的かつ暴力的な言葉として記録されました・・・それじゃ何も云えなくなるじゃないか・・・だから沈黙してればいいのです、黙々と国の指示に従ってさえいれば命だけは保証されるんですから・・・嘘つけ、戦争に駆り出された場合はどうなるんだよ・・・愛国者としての栄誉は、戦死してなお燦然と輝き続けるでしょう・・・バカバカしい、命あっての人間じゃないか、国に殺されてたまるか・・・・バカバカと、アナタは二度云いましたね、それに我が国家を殺人扱いにしたこと、み〜んな記録されました・・・非国民ってか、死刑にでもするんじゃないだろうな・・・国家反逆罪に侮辱罪もろもろ加算されて、チン、出ました、アナタは今現在死刑の判決が宣告されました・・・ゲッ・・・お待ちなさい、忘れ物ですよ、逃げようとしても無駄ですよ・・・
「人間に、飽くことのない執拗さを植え付け、偏執狂的な攻撃をさせるものとはいったいなんでしょうか。(中略)
戦争が人間を駆り立てて、別人格にしていく暗く深い謎が、隠されているような
(中略) すべてをきれいにすればいい。異なるものは排除すればいい。(中略)
これは危険です」
---辺見庸著「不安の世紀から」---
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17時
ほかに用があるのに、今日は何故か心の内を吐露したくなった。「バカか悧巧か分からない紙一重」とはよく言われてきたことだが、それに加えて「臆病なのか度胸が座っているのか分からないバカ」とはその筋の感想、らしい。生まれてこのかた片時も離れない自分自身にも皆目分からない。ちょっぴり傾向ぐらいは分かってきた。分からなけりゃ分からないままでいい。答を急ぐ必要もあるまい。
葬儀のカネの工面は何とかなった。後のことも何とかなっていくだろう。そんな居直りに近い生き方で乗り切るしかない。今日は妹夫婦の家で風呂に入る予定だったが、寒さで風邪をひくことを考慮して止めた。皮膚の垢を洗い流すことは、私の場合下着を脱ぐに等しく、それだけでも風邪をひく。笑っておくれでないか、それが本当のところの理由だ。筋トレも控えめにした。この不況に、わざわざ重い鉄の塊を持ち上げる理由もない。
いろいろ書きたいこともあったのだが、キーボードを前にして突然記憶が消えた。健忘症がひどくなってきている。なのに嫌なことはなかなか忘れない。なんか疲れた。30分ほど寝たい。
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