昨日← 05/01/04 (火)翌日
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【私的めもらんだむ】

 昨夜、叔父の葬儀のことで地元の母方親戚を訪れる。おふくろの姉にあたる、私にとっては叔母の様子がおかしいことに気付く。私が猫を飼ってるのを知って訊ねるのだが、何度も同じことを訊ねるのだ。その表情は穏やかで、以前の叔母とは一変していることにも気付く。これは明らかに惚けの症状だ。私のイトコであるところの、叔母の息子がそのたびに口汚い言葉を叔母に浴びせる。私は思わずイトコの首根っこをつかまえたい衝動に襲われた。このイトコの口の悪さには慣れていたはずだが、この時は我慢するのに難儀した。「オレは叔母ちゃんを見るたびにオフクロを思い出すよ。心配ばかりかけてきたからね。だから叔母ちゃんには長生きしてほしいんだ」 母の姉だけに、おふくろの面影があるのだ。その叔母の心が壊れかかっている。皮肉なことに、以前の意地悪そうな表情は消え、今は仏様のような穏やかさでニコニコ笑っている。私は泣き出したくなるのを堪えてその家を出た。イトコは私が訪れた時から出る時まで、私にそっぽを向いたままだった。これもいつものことだと、変わらぬイトコの底意地の悪さを感じながら「二度とここは訪れるまい」と誓っていた。私はどうしてもこのイトコが好きになれない、許せないまでになっている自分の危険も同時に感じていた。
 私は家に帰ってから、自分の心の動きを辿って考えてみた。なぜあの時、私はあんな衝動が起きたのか?と・・・ふと過去の記憶が蘇った。過去に同じことがあったのだ。イトコが私の元で働いていた時のことだった。父が急死して、母が社長となったばかりの頃だ。朝に母が仕事の指示をしていたその時に、奴は口汚い言葉を母に浴びせたのだった。いかに親戚筋とはいえ、自分のおふくろが罵られて黙っているわけにはいかない。私は奴の首根っこをつかまえると、瞬時に殴りつけていた。驚いて逃げるイトコを、地面に転がっていた丸太ん棒を握って追いかけた。私は終始無言だった。不思議なことに冷静でもあった。母は珍しく私を叱ることなく「おまえ、清々したろ」と云ってくれた。その日からイトコは来なくなった。
 ああ、そうか・・・それで衝動の謎が解ける。でも今回は抑えて良かった。叔母に母の面影があるとはいえ、私の母ではない。私の母は死んだのだと・・・「おまえの母ちゃんの夢を見たよ」 叔母の云った昨夜の言葉を反復しながら、しばらく夢にも現れない母のことを想っていた。

13時
 ちなみに上記のイトコは、仕事上では私の先輩で、数歳年上の母方イトコである。その先輩を殴ったのだから、殴られた当人は体面を汚されたというか、私を恨んでも不思議はない。それを承知でやっている。年上であろうが先輩であろうが、こと人の道を外すような人間は容赦しない。仮に私がそのようなことをすれば自殺する。私の自虐的な傾向はそんな考えに端を発しているのかも知れない。人を許さない以上に、自分に対してもまた許さない自己葛藤の日々を送ってきたつもりだ。闇討ちをくらって繁華街の水溜りでもがいたこともある。生意気ざかりのそんな青春をして、私は自らをチンピラと称してきた。しかしその辺のゴロツキとは違う。深夜の山の天辺で月に向かって吠える、オレは孤独な一匹狼・・・深手を負った傷を舐めながら、また一人で立ち上がる。手前勝手なそんな思い込みのままのた打ち回ってきた。それは多分に世間様常軌を逸脱した青春であったろう。
 「あんたは本当はやさしい人だね」 隣の酔客に突然そう話しかけられて面くらい「気安くオレに話かけると危ないぜ」と粋がってみせる。照れている自分を隠す言葉が哀しかった。「駄目よ、あんたの顔にそう書いてあるんだから」追い討ちをかけるようなママの言葉を振り切って、外に出れば雨、どしゃぶりに溢れる涙を流した夜のことを・・・人は知るまい。ああ病院には末期ガンのおふくろが苦しんでいるというのに、親不孝のオレは野良犬のように酔っ払って路地裏をうろついている。親不孝では確信犯の私だった。グラスの底のウィスキーに、自分の小さな死を見つめながら、グイッと一気に飲み干してきた。それが度重なる自殺指向は否定できない。「ねえ、一緒に死のうか?・・・怖い?・・・私じゃ不満?」 戯れとも本気ともつかぬ女の言葉を受けて「オレで良かったら、一緒に死んでやるよ」と呟いた時のこと、まだ二人とも若かった。今ごろどうしているだろうか?

 私は何故こんなことを思い出しているのだろう? 叔父の葬儀に出る準備をしなくてはいけないのに・・・猫が腹をすかして鳴いている。庭の塀にゆらゆら揺れている木漏れ日の影・・・静かな昼下がりにぼんやりとそんな光景を心に刻み付けている。まるで明日が無いように、今の瞬間だけを記憶しようとしているようだ。また風が吹き始めた。ひゅうひゅう唸る風が私の透過した心を吹き抜けていく。温もりが欲しい。

16時
 ウィスキーを飲み始めている。心が緩んできている序でに、少しウラ社会のことを、私が体験した範囲で語りたいと思う。私は先に「気安くオレに話かけると危ないぜ」と酔客に向かって云った、と書いた。凄んだ、と書いたほうが適切だったかも知れない。しかし、それは単にチンピラが凄んだ、というのとは少し意味合いが違う。それをどう表現していいのか、迷う。私の性格に「凄む」という傾向はあまり無い。「ぶっ殺してやる」とか凄むのは論外だ。普通の何気ない言葉で、周囲を震え上がらせるに十分なテクニックがあるのだ。普通の言葉に微妙なイントネーションを加味するだけで、百パーセントの確立で周囲の人々は後ずさりするだろう。私はこのテクニックを一度だけ使った。「怖いから止めて」とママに言われてから、私は二度とこの話法を使うことはなくなった。くだらない話である。その、くだらない話をし始めた私は酔っている。酔った以上、少しだけくだらない話をするのも許してほしい。あんなことがあった、こんなことがあった、という風に話をしていきたいが、ただの酔っ払いの戯言と聞き流してほしい。

 何処の地方にもその土地の黒幕が存在する。地方財政を牛耳る根幹に、彼らは位置するがゆえに、ことは深刻になる。ある日、私の工場にパトカーが運ばれてきたことがあった。そして、次には高級外車が運ばれてきた。一目して、私にはその外車がその筋の幹部の車だと分かった。当時、それが何を意味するか分からなかった。しかし、元請けから突然切られて、その理由を調べる過程で分かってきたこと・・・それは世間様が想像する以上にドラマチックな内容だった。つまり、黒幕は私のすぐ近くにいた、ということだ。奴は繁華街で飲みに出るたびに、5〜6人のその筋のボディガードを従える。それは何を意味するか?である。そこはこれを読む人の想像に委ねたい。そして、その想像はよくあるヤクザ映画のパターンということで、正解だ。その張本人が、今、私の住む地域の財政を牛耳っている。そして、数年前に奴は数千万の融資を引き出し、自分の会社に当てた。むろん、そこに何ら違法性はない。正規の手続きを踏んで、融資を引き出したわけだから・・・だが、問題はまさしく「ウラ社会がオモテ社会に堂々と現れた」という、そのことにある。戦争も正当化できる世の中である。それが何が悪いのだ?と、法律を盾に迫られれば逆に名誉毀損で訴えられかねない。その法律でさえ、彼らの尖兵が潜り込み、彼らに都合のいいよう作り変えられているのだから・・・
 こんな素朴な疑問を知った某地元有力者にぶつけたら、即座に返ってきたのが「おまえ、そんなこと言いふらしてたら殺されるよ」・・・だった。何度か小さないざこざで闇討ちにあってきた私だが、この問題だけは相当にヤバイ、と感じざるを得ない。「人通りの少ない夜道を歩く時は注意したほうがいいね」そんなアリガタイ忠告も受けている。そんな忠告を受け始めたのも、実は警察がらみの構図を確かめていた時だった。

 ここで話をはぐらかそう。ネットで盛んに「ヤクザはカスだ。右翼は人間以下だ」と喚いていた若者がいた。確かに、その通りである。しかし、それが時としてその筋の逆鱗に触れることだってあるのだ。彼らは世間様に忌み嫌われているのは重々承知している。だが、個人的に自分が名指しで軽蔑されているとなると、話は別だ。それが何を意味するか、も読者の想像に委ねたい。実は私もそうだった。ヤクザの幹部に面と向かって毒づく私に、彼らは直接向かって来た。命を捨てたような若い私に、彼らが言ったことは「若いの、いい度胸してるじゃねえか」、という一言だった。最後に「おまえ、サッパリしてるな」とも云われた。ああ、オレはサッパリしてるとも。だが、内心はお世辞にもサッパリしているとは云い難い、懊悩の塊みたいな人間であった。感受性が極度に強く、そのための妄想に悩まされてもいた。それは今も変わらない。
 その手の話にはこと欠かないが、酔いが回ってきたようだ。長くなりそうなのでこの辺でやめておく。

23時
 ふむふむ、夕方書いたもの↑を、今読み返している。酔って書いているだけに、何が云いたいのか?分からん部分もあるな。多少鬱も入っているようだ。本音が随所に出ているところが気になる。まだ完全にアルコールは抜けないが、酩酊からは脱却した今、恥ずかしくて消したくなっている。でも、これも自分だ。記念に残しておくことにした。16時に飲み始めた、というのは嘘だ。それ以前の昨夜から酔いを引きずって書いている。ために日誌の出だしから妙に思い入れが顕著になっている。例年ほど酒浸りの正月とはならぬまでも、やはり今年の正月も元旦からチビリチビリ飲んでいる。
 明日には完全にアルコールを抜くために、トレーニングを開始したい。腹筋100回を皮切りに、ダンベル、バーベルでの筋トレ、これを汗が流れるまで繰り返す。そして洗面所で汗を拭い、下着を取り替えて礼服を試着、叔父の葬式に備える。たまにはビシッと決めたい。太っちょの以前の私しか見てない親戚は、私の今の痩せように驚くはずだ。頬もこけたが、何より眼が変わった。眼ん玉がギョロリとして、自分ながら怖い。神経質そうではあるが、貧相に見えないだけマシだ。貧乏なうえに、容貌まで貧相だったら救われない。そう云えば、昨夜訪れたところのイトコは、より貧相な顔立ちになっていた。頭も禿げあがり、無愛想がさらに貧相さを際立たせていた。中途半端な禿げがもの哀しく、私だったら全部剃ってユル・ブリンナーのようにするのに・・・惜しい。妹が、久しぶりに会ったイトコの頭を見て「あら、しばらく見ないうちにすっかり禿げちゃったわね!」と叫ぶように云ったことがある。周囲には一瞬気まずい雰囲気が漂ったが、私は笑いを堪えるのに必死だった。


【視聴予定】

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