2002/7/10-日本の原発動向
原爆症、全国一斉認定申請−−県内からは8人 /熊本
◇却下後の訴訟も見据える
9日の原爆症全国一斉認定申請で、県内からは60〜80代の被爆者8人が申請した。広島や長崎での被爆から57年。いずれもがんや肺気腫などを患っている。放射能被害の不安、国の姿勢への憤り。「訴訟を覚悟でやるしかない」。熊本でも被爆者が立ち上がった。 【姜弘修】
県によると、県内の被爆者健康手帳所有者は今年3月末現在で2136人。そのうち原爆症認定者は6人。認定の厳しさから申請自体をあきらめる人も多い。
集団申請に加わった上村末彦さん(76)=八代市海士江町=も申請をあきらめてきた。19歳の時に広島の爆心地から約2キロの町で被爆。がんが見つかり、病院通いを続けている。昨年は認定申請中だった友人が病で亡くなった。「体がいつどうなるか心配でならない。私たちは犠牲者。国は被爆者の気持ちをくみとってほしい」と語った。
被爆者約1100人が入会する県原爆被害者団体協議会の中山高光事務局長(73)は「国は被爆者を切り捨てるやり方を変えようとしない。状況を変えるには集団で社会に訴え、訴訟も覚悟でやるしかない」と、却下後の訴訟も見据えている。
協議会によると、この日間に合わなかった申請予定者が数人おり、追加申請する。また、同協議会は同日、潮谷義子知事あてに、早期審査を国に要請することなどを要望した。(毎日新聞)
核燃料税増税「同意」手続きスタート 総務省、慎重に対応へ /福島
◇自治税務局長「粛々と手続き進める」
福島県は9日、原子力発電所で使用する核燃料に課税する法定外普通税「核燃料税」を実質約2倍に増税する新条例の施行に向けて、総務省に「法定外普通税新設協議書」を提出した。新条例は同県議会が5日全会一致で可決したが、施行には同省の「同意」が必要。同省の手続きは通常約3カ月かかるが、瀧野欣弥自治税務局長は「新しい枠組みのため相当程度時間がかかるのではないか」との見通しを示し、慎重に対処する考えを明らかにした。
片山虎之助総務相は1日、新条例の容認を示唆したとも取れる発言をしたが、協議書を受け取った瀧野局長は「法に則って粛々と手続きを進めたい」と述べ、白紙の状態で判断する姿勢を示した。同意要件の一つである「国の経済政策に照らし適当か」どうかの判断が焦点となる。
納税者の東京電力や経済産業省は「電力コスト低減を阻害し、国の経済政策やエネルギー政策に沿わない」と他の原発立地道県への波及を懸念しており、総務省が「不同意」の判断を下すよう働きかけを強める構えだ。
これに対し、川手晃副知事は協議書提出後、記者団に「核燃料税で賄う電源立地地域の各種施策はエネルギーの安定供給という国策に通じる」との県の立場を改めて強調。総務省の判断について「楽観も悲観もしていない」と述べた。現行条例の期限切れとなる11月10日までの施行を目指し、同省に県の立場を精力的に説明していく構えだ。
また、佐藤栄佐久知事は同日、都道府県会館で記者会見し、核燃料価格低迷に伴い税収減が続く現行制度では財政需要に対処できないなど、増税に至った背景を改めて説明した。しかし、反発している東電の南直哉社長らとのトップ会談には消極姿勢を示した。【神崎真一】(毎日新聞)
島根原発2号機の定期安全レビュー報告書提出
中国電力は九日、島根原子力発電所二号機(島根県鹿島町)の定期安全レビュー報告書をまとめ、経済産業省に提出した。当直勤務体制の充実やアクシデントマネジメント(事故管理)の整備により、安全性と信頼性が高い水準にあると報告した。原子力安全・保安院は八月までに報告内容を評価し、公表する。
報告書では、一九八九年に運転開始した2号機の自主保安活動を、運転経験の包括的評価▽最新の技術的知見の反映▽確率論的安全評価―の三項目に分けて総合的に判断した。定期安全レビューは九二年に通産省(当時)から要請を受けて、全国の原発が自主保安活動の一環として、約十年ごとに実施している。
<原爆症認定>77人が一斉申請 国は基準維持、却下の見通し
全国の被爆者が9日、各都道県と広島、長崎両市を通じ国に原爆症認定を一斉に申請した。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が呼び掛けた初の集団申請で、申請者は被団協と毎日新聞の調べで9都道県、77人に上った。医療特別手当が支給される原爆症認定者は被爆者健康手帳所有者約29万人の0.75%に過ぎないが、国は現行の認定基準堅持の方向で、申請は多くが却下される見通し。被団協は国に却下処分取り消しを求める集団訴訟を起こす方針で、認定制度のあり方をめぐる論議は今後、司法の場に移る。
9日の申請者は北海道7人▽東京都4人▽愛知県5人▽石川県6人▽和歌山県1人▽広島県30人▽山口県1人▽長崎県15人▽熊本県8人。この日までに申請しようとしたものの、書類の不備などを理由に受け付けられなかった被爆者もいた。
厚生労働省によると、全国の被爆者健康手帳所有者は28万5620人(今年3月末現在)だが、月額約14万円の医療特別手当が支給される原爆症認定者は2169人(同)にとどまる。これは国が認定基準として、爆心地からの距離などを基に被ばく線量を推計する「DS86」という方式を採用しているためで、「爆心地から2キロ以内」「がん、白血病」など近距離の被爆者や限られた疾病の発病者しか認められていない。
国は、より正確な線量を推計するため、米国と共同で「DS02」という新方式への改訂作業を進めているが、被団協は「新方式も、被爆者の千差万別な被爆状況に対応できるものにはならない可能性が高い」としている。 【平和取材班】
◇「生きているうちに」被爆者、訴え切々
この日申請した被爆者たちは「機械的な線引きで原爆症ではないと決め付けるのはおかしい」「生きているうちに認定を」と切実な声を上げた。
東京都庁には、4人が申請に訪れ、手続き後、記者会見。長崎で被爆した吉田忠さん(72)=東京都板橋区=は当時15歳で、爆心地から2.5キロの工場で働いていた。外がピカッと光り、工場の窓ガラスが粉々に砕け散って首や背中に突き刺さった。その跡が今も残る。肝細胞がんと診断された昨年6月。被爆後5度目になる手術を受けた。「私たちは生き地獄を味わった。お金じゃないんです。もう少しいたわってほしい」と話した。
4歳の時、広島で被爆した斉藤泰子さん(61)=新宿区=は9日朝、母の友谷幾さん(89)=葛飾区=に電話で申請を託した。00年12月に大腸がんとわかり、切除したが、昨年4月に再発した。前日まで「自分で集団申請に参加したい」と話していたといい、友谷さんは「娘のために国の扉をこじ開けたい」と語る。
00年1月に肺がんと診断された久保玉子さん(75)=中野区=は広島で18歳の時に被爆。「肺を切らずにこのまま死にたいが、生きているうちに認定を勝ち取りたい」。広島で12歳の時に被爆し、舌がんと闘う黒住秀夫さん(69)=日野市=も原爆の悲惨さを訴えた。
◇基準改定の必要ない 厚生労働省の下田智久健康局長
原爆症の認定基準は科学的知見に基づいて設定され、以前から適用されてきたものだ。研究者レベルで現在、爆心からの距離をもとに被ばく放射線量を算出する「DS86」という推定方式を、より線量が正確に測定できる「DS02」方式に改める検討が行われているが、被ばく放射線量にはほとんど変化はもたらさないと聞いている。新しい科学的根拠が出てこない限り、現在の基準を改める必要性があるとは考えていない。(毎日新聞)