★血の海に沈むガザ──北部大侵攻のただなかで
The "Days of Penitence":Gaza
Sinks
in a Sea of Blood
ムハンマド / Mohammed Omer
2004年10月18日─ナブルス通信2004.10.24号による─
ひどい臭いだ。どの通りを歩くにも、血だまりを避けて注意深く端のほうを進んでいかなければならない。でも、時にはどうしようもなく、血の海に足を突っ込まざるをえなくなってしまう。肉片が散らばっている。中には、とても人間の体だったとは思えないものも。それが、ありとあらゆるところに貼りついている。腐敗していく血の臭いに加えて、それ以上に胸の悪くなるような、黒く焼け焦げた人体の臭い。イスラエル軍のアメリカ製アパッチ攻撃ヘリのミサイルにやられた人たちのものだ。
空は黒い煙でいっぱいになっている。煙は、熱源をとらえる無人偵察機のレーダーを撹乱するので、住人は、爆弾を落とされるにしても、できるだけ被害の少ないところに誘導できればと、少しでも空いたスペースがあれば、そこで火を燃やしている。
ボランティアのスタッフが人体の断片を集めて、ジャバリヤのふたつの病院に運んでいこうとしているけれど、救急車は、新たな死者、負傷者の洪水に追われて、断片の搬送まではとても手がまわらない。
いたるところで目にする葬儀の列。そして、殺された人たちの遺族が、友人や親族を迎えるために立てたテントの「追悼の家」。
ここでは時間もゆがんでいる。1時間が1日に、1日が1週間にも1カ月にも感じられる。ガザ地区北部にあるジャバリヤ難民キャンプ。ごくごく狭い地域に10万6000人の人が住んでいる、世界じゅうで最も人口密度の高い場所。圧倒的多数が武器など持っていない普通の人たちなのに、そんな人たちが、もう1週間以上にわたって、徹底的な攻撃にさらされている。
先週、イスラエルの町スデロットに、パレスチナのレジスタンスによる手製のカッサム・ロケットが撃ち込まれて、子どもふたりが死んだ。今回の大規模攻撃は、それに対する「応酬」である──これがイスラエルの公式の態度だ。でも、実際には、ジャバリヤ難民キャンプに最初の戦車隊が押し寄せてきたのは、スデロットにロケット弾が着弾する何時間か前のこと
*1。そして、僕たちはみな、この何週間かの間ずっと、ガザ北部のイスラエル軍が増強されるのを、2000人の新兵力が投入され、100台以上の戦車とブルドーザーが配備されるのを、警戒感をもって見つめてきた。
今回の作戦を「悔悟の日々(Days of Penitence)」と名づけたイスラエル軍の残虐性に愕然とする。イスラエル軍は、武器を持っていない一般市民をなぶり殺しにしているだけではない。「悔悟」という言葉は「自分がなした過ちをみずからが後悔する」ということだ。今回の殺戮行為は、ジャバリヤの人たちに後悔させるためだとでもいうのだろうか?
ジャバリヤの人たちは、4人か5人のイスラエル兵とふたりのイスラエル人の子どもの死を悼み、60人以上のパレスチナ人の死を、いわば当然の報いとして受け入れるべきだとでもいうのだろうか?
ジャバリヤにとらわれの身になっている僕たちにしてみれば、これは「報復の日々(Days of Revenge)」としか思えない。疑問の余地なく、集団懲罰であって、ジュネーヴ協定に違反する行為だ。
たぶん、こんなことに驚いていてはいけないのだろう。イスラエルのシャロン首相は、今回の攻撃は「必要ならばいつまでも」続くと宣言した。要するに、パレスチナ・レジスタンスの手作りロケット弾による「危険が完全になくなる」まで、ということ。言うまでもなく、シャロンは20余年前に、サブラーとシャティーラの虐殺を実行した人物だ。その彼が、今、当時とほぼ同じことをやっている。ただし、サブラー・シャティーラの時よりも格段に進歩した武器を使って。
国際社会の抗議の声は、イスラエルを支援するアメリカ合衆国に妨害され、沈黙させられてしまった。今ではかろうじて、イスラエルに「穏当な対応」を取るよう促す国務省の弱々しい声が残っているだけ。それも、お定まりの「イスラエルにも自国を防衛する権利がある」という呪文の前では、まったく無力と言うしかない。今週の初め、今回の攻撃を強く非難する決議案が国連に提出されたが、当然のように合衆国が拒否権を行使して、採択されることなく終わった。
死亡者数を正確に把握するのは難しい。一番新しい発表では、パレスチナ人の死者80人(ハマスによれば、内20人はレジスタンスのメンバー)、負傷者は200人を超えているということだが、このレポートがサイトに乗るころには間違いなく、もっと増えているはずだ
*2。
ジャバリヤにはもうどこにも避難する場所がない。ふたつの病院は混乱の極。医療品は底をつき、スタッフ全員が、1日24時間働きつづけている。
カマル・アドワン病院の責任者、マフムード・アル・アサリ医師はこんなふうに話してくれた。
──イスラエル軍は意図的に一般市民をターゲットにしていると考えざるをえない。負傷者の大半は、身体上部に銃弾を受けている。これは、イスラエルの狙撃兵が殺害するようにという指令を受けているに違いないことを示している。また、医師たちは死者・負傷者の多くからフレシェット片を摘出している。要するに、イスラエル軍は違法なフレシェット弾 *3(炸裂するとカミソリ状の鋭利な金属矢=フレシェットを放出する)を使っているということだ。この武器が、死者数・重傷者数を大きく増やしている。
イスラエル軍はこれに関してはコメントを拒否している。
イスラエル軍は、ガザに入るすべての入り口を閉鎖し、ガザ地区内の移動も厳しく制限している。軍事検問所が閉鎖されると、ガザ地区全体は大きく3つのエリアに分断されるけれど、最近では新しい検問所が多数設置されているようで、道路はいたるところがセメントブロックと土で遮断されている。みな、隣町に行くこともできない。救急車さえ、病人を病院に運ぶことができない。さらに、イスラエル/ガザの主要クロッシングが閉鎖されると、各国のNGO、人道支援機関、外国のジャーナリストたちも、ガザに入ることはできない
*4。
ジャバリヤの人たちにとっての危険は、軍事攻撃だけではない。もう何日もの間、大勢の人たちが食べ物も飲み水もなしで過ごしている。
やっと電話がつながった国際赤十字委員会(ICRC)の広報担当、サイモン・ショルノ氏は、こう言った。「今、私もガザに向かっているところです。これまで、食料と水を届ける許可を得ようと、ずっとイスラエル軍と話をしてきたのですが、全域に食料配布する許可はいまだ得られていません」
「食料と水を運び込もうとはしているんですが、道路がメチャメチャにされていることもあって、なかなか住人のところまでたどりつくことができないでいます」
イスラエル軍は数階建てのビルをいくつもスナイパーの狙撃拠点として使用し、動くものは何でも撃っている。14歳の少女、イスラーム・ドウィダル *5も、母親の代わりにパンを買いに出かけたのだが、スナイパーの銃弾に頭を直撃され、死んだ。
ガザ地区南部のハンユニスとラファでも、イスラエル軍の戦車とブルドーザーの数は増える一方だ。夜な夜な激しい攻撃があり、大勢が死んだり怪我をしたりしている。今朝、ラファのアン・ナジャール病院の責任者、アリ・ムーサ医師に電話をしたら、ムーサ医師は、今月6日にスナイパーに撃たれて死んだ13歳の女の子、イマン・アル・ハムス *5の話をしてくれた。「病院に運ばれてきたあの子の体のあちこちに20発の銃弾が撃ち込まれていた。5発は頭だった」
目撃者の話によると、アル・ハムスは友達ふたりと学校に行く途中で殺されたという。当初、イスラエル軍は、メディアに対して、少女は爆弾を隠し持っていたと発表していたが、のちに、その言が嘘であったと認めざるをえなくなった。
ラファへの攻撃は現在も続いている。今年5月のいわゆる「レインボー作戦(Operation Rainbow)」の時よりも状況ははるかにひどい。「レインボー作戦」の大規模攻撃では40人が殺され、世界中で激しい抗議の声が上がったのに、今回は違う。沈黙が続くのみ。とりわけ、アメリカ合衆国の沈黙が、ガザ地区を殺戮の場に変えてしまっている。シャロンは、アメリカが大統領選挙とイラク侵攻に忙しい今、ここぞとばかりにガザ地区の若者たちを殺しまくっているのだ。いったい、あと何人殺されたら、世界は声を上げるというのだろう……。
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全文を要約してこれを書いているが、要約するには深刻な文面に心が締め付けられる思いだ。一言一句が断末魔の人間の、命の叫びであり、悲鳴なのだから・・・ 一見平和そうな日本においても、着々と戦争への道のりが権力者によって準備されていることは大部分の国民が薄々気付いているはずだ。言うべき人たちが沈黙している今、結果的に多くの犠牲を強いられるのが大多数の国民の側にあるということを・・・もう一度おのれの心に再確認する必要があるのではないか。
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