■「ゆう水」の可能性
来年2004年度から酪農家は糞尿を垂れ流すことが禁止され、そのため国は公共事業として半年分の糞尿を貯蔵できる巨大タンクを建造している。大量の糞尿を水で薄めて腐熟させ、肥料として牧草地に撒いて有効利用を図ろうというのだ。一つあたり1億円はするタンクの建造費の95%は国と北海道の補助金から賄う。さらに牧草地に撒いた糞尿が川に流れ込まないように、川と川の間に遊水地をつくり食い止める計画だ。「国営環境保全型かんがい排水事業」と呼ばれるこのプロジェクトにはおよそ1000億円が投入される。
一方、津別町では牛の糞と尿を分離し、尿を三段階に発酵させてつくる活性水「ゆう水」という独自の方法で解決している。絶えず空気を送り込むことによって発酵を促進し、尿の中の微生物が分解するにつれて次の槽に移し替えていく。発酵をはじめて二ヶ月で悪臭は消える。こうして出来た「ゆう水」を牛の糞にかけると、「ゆう水」に含まれた微生物の働きによって堆肥の発酵が飛躍的に高まる。完熟した堆肥を牧草地や畑に撒くことで、汚染防止と土づくりという一石二鳥の効果を生む。化学肥料を用いてつくった野菜は独特の苦味があるが、「ゆう水」がつくった土で育てた野菜は全く苦味はなく、しかも甘いと云われている。津別町21戸の酪農家がこれを導入、かかった費用は総額2億1000万円だという。国が進めるプロジェクトでは少なくとも20億円はかかるのと比較すれば、どちらが効率的かは云うまでもないだろう。ある水産加工場では酪農家から「ゆう水」を譲り受け、これまで処理に困っていた魚の内臓などに散布、臭いは殆どなくなり蝿の数も減少したと云う。これは「ゆう水」が有機物を分解したことによる。
こうした効果のある「ゆう水」も、国や北海道は補助金の対象とは認めようとしない。北海道開発局釧路開発建設部の吉田一夫、農業開発部長は云う。
「ゆう水」というのは国営事業には馴染まないんです。国で出来るのは水と土地、整備が基本なものですから・・・「ゆう水」は水を使わないんですね。ですから国の事業にはなかなか取り込めないというわけです。水源から末端まで水で繋がっているということが国の開発事業の基本になっています。つまり「ゆう水」は国のマニュアルにそぐわないということです。
小清水町の獣医、竹田津実氏は15年前から「ゆう水」をつくり続け、農家に無料で提供している。竹田氏はもっと広く普及させようと国に補助金を希望してきたが、北海道庁は「効果が科学的に立証されない」として認可を拒んでいる。かくして国は酪農の大規模経営を促進させて酪農家に多大な借金を負わせ、今度はまた「ゆう水」という画期的な糞尿処理方法を拒みながら、無駄な設備投資で国家予算を捨てようとしているのだ。
(NHK教育テレビ「発酵仮面、北の大地を行く」より引用抜粋)
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