---03/04/06 (日) ---
イラク開戦news
 私がここで引用している「秘本兵法三十六計」とは、てっきり孫子兵法の流れを組むものとばかり思っていたが、実は違った。作者不詳とのこと、赤面の至りである。日本でも昔から「三十六計、逃げるにしかず」という馴染み深い言葉もあるが、中国でも兵法書としての「三十六計」は最近まで知られることはなかったという。ただ、「三十六計、逃ぐるを上となす」という言葉だけは、出所及び史実にも記録されていて、五世紀後半の武将、壇道済(だんじょうざい)が得意とする計策であったとされている。専門家によれば、「易」の理に基ずく太陰の基数6に6を乗じ、その数を借りて陰謀詭計が多端に渡ることを表したのが「三十六計」ではないか、ということである。したがって「秘本兵法三十六計」では、易学でいうところの三十六という数そのものにはあまり意味をもたない。この書が発見されたのは日中戦争中の1914年当時の古書店で、その後、この本を世に紹介した人物は文化革命の迫害で悲惨な死をとげ、1978年に再び雑誌に紹介されるが何故か連載一回目にして打ち切られている。推察するところ、権力者にとって世に出るには甚だ都合の悪い書であったようだ。私が古本屋でこの本を手に取り、思わず惹き付けられたのは第33計「反間の計」の頁を見開いたときだった。昨日の日誌で書いた「疑中の疑なり。これに比すること内よりすとは、自ら失わざればなり」の後に、「間とは、敵をして自ら相疑忌せしむるなり、反間とは、敵の間に因りてこれを間するなり」と続くのだ。ここでいう間とは孫子の云うところの五間で、今でいうスパイの教書的要素を分析してみせている。孫子兵法を凌ぐこの本に私は驚き、迷わず購入したのだが、そのため秘本兵法三十六計を孫子の書と錯覚してしまったのだ。壇道済が得意としたとされる策「三十六計、逃ぐるを上となす」は、この本の最後の最後、第六部「敗戦の計」第36計「走為上」に、「全師、敵を避け、左き(しりぞき)次る(やどる)も咎なし、いまだ常を失わざるなり」と記されている。私にはイラクのフセイン大統領がこの心境に最も近いのではないか、と思えてくる。「秘本兵法三十六計」はおそらく絶版となっていると思うが、私の持つものは1981年版、出版元は徳間書店とある。
 反間の計を現代風に解釈すれば「敵国の対立する派閥に間者を放ってデマを流し、内紛を起こさせて互いに離反させ、かつ敵国を疲弊させる」ということであろうか。アメリカがバグダッドを制圧しつつあると云えば、イラクはその情報を否定しつつ奪回したと云う。これなども多分に自国に都合の良いデマを捏造しての情報戦ともいえる。イラク軍及び国民がアメリカのデマを信じて士気を失い、クーデターが勃発するか、もしく降伏すれば反間の計は成功したことになる。敵国の人民にデマを流させて撹乱するを「郷間」、敵国の役人を使って派閥抗争を起こさせる「内間」、敵国のスパイを逆用する「反間」、敵に加担したと見せかけてデマを伝える「死間」、自国のスパイを敵国に放つ「生間」、この五つをもって「五間」という。これらは世界の名だたる諜報機関が行ってきたことであり、ダブルスパイ、トリプルスパイといった高度なスパイ教書ともいえる。イラク開戦の一年前から北西部に潜入していたという特殊部隊も、こうしたスパイ活動を通じて暗躍してきたわけだ。
 また、ブッシュ大統領はかつてのイラク内戦での裏切りを忘れたかのように、クルド人への支援を約束しながら、早くも昨日、勝利宣言をしている。その狙いはキルクーク油田の確保であることは云うまでもない。今日は朝から第3歩兵師団のバグダッド進軍の様子が放映されているが、対向車の乗用車やトラックに片っ端から砲弾を浴びせているのが気になった。明らかに民間車輌と思われるのだが、米軍に云わせれば「民間を装う自爆テロを警戒しての先制攻撃」なのだそうだ。しかし、その自爆テロにしてから何処でどう判別しているのか?皆目見当がつかない。映像を見る限り、判別するどころか、運転台の内部すらガラスの周辺反射で見えないのに無差別に撃っているようだった。フロントガラスに瞬間的に走る銃弾の穴は、運転する人間を即死たらしめるに十分すぎる威力を想像させてくれる。道路に無造作に横たわる犠牲者の多くも、民間人を装ったイラク軍兵士などであろうとは思えない。確かにイラク兵も紛れ込んでいるだろうが、間違えられて撃たれた民間人が圧倒的に多いのではないか。イラク人を見かけたとたんの速射が、それを物語っているように思えてならない。これは戦争ですら有り得ない、単なる愉快犯による連続殺人ではないのか?それほど一方的に人がなぎ倒されていく、そんな感じを受けた。
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