ラビン首相の暗殺者はオトリだった?
この件に関して調査報道を行っているイスラエル人、バリー・シャミシュは、検死医や弾道学者による報告書、ラビンのボディガードをはじめ、ラビンの未亡人、外科医、看護婦らの目撃証言、イスラエル諜報界内部の人間たちの意見資料を個人的に集めてきた。その多くが非公開の法廷に、証拠として提出されたものだった。
1999年になって、シャミシュは自らの責任で、発見した事実をインターネット上で公表し始めた。1963年のジョン・F・ケネディ暗殺の犯人について囁かれた疑惑の不気味な再現のようだ。シャミシュの緻密に練り上げられた結論は説得力に富んでいる。骨子はこうだ。
「首相暗殺について、イスラエル政府のシャムガール委員会は単独犯説をとっている。これは下降気味だったラビン人気を再び盛り上げるために狂言暗殺が仕組まれたという事実を隠蔽するものだ。イガル・アミールは諜報界にいる黒幕の指示を受けて、単独犯の役を演じたに過ぎない。
アミールが撃ったのは空砲だった。三発撃ったと伝えられているが、実際は一発だけだった。現場で発見された薬莢が、イスラエル警察によって弾道テストにかけられたが、アミールの銃の弾道とは一致していない。この時点で、ラビン首相の体には出血が認められなかった。さらに、首相が出席した平和集会のために、警察の手で交通が遮断されていて、病院までは車で45秒で行ける状態だったのに、ラビン首相を乗せた車が8分ないし12分も要したことも理屈に合わない」
シャミシュの主張の中で最も衝撃的なものは次のようなものだ。「熟練した運転手が、病院までわざわざ時間をかけて車を走らせている途中で、ラビンは車中で二発の実弾を撃ちこまれた。しかも、それは首相のボディガードであるヨラム・ルビンの銃から発射されたものだった。病院に到着後には彼の銃は姿を消し、二度と発見されることはなかった。首相の体から検出された銃弾も、11時間のあいだ行方が知れなかった。ルビンは、のちに自殺を遂げている」
シャミシュは、首相の救命手術に尽力した三人の外科医と話をし、アミールが発砲したとき現場に居合わせた警官たちの証言についても、検討を重ねている。警官たちは全員、車に乗せられたイツハク・ラビンの体には外傷が見当たらなかったと証言した。外科医たちはこの証言を認めようとしない。ようやく病院に到着したときのラビン首相は、明らかに胸に受けた大きな傷の痛みに喘いでおり、首の下方には脊髄のひどい損傷が認められたという。医師たちは、銃で撃たれた傷の場合、現場で負傷の徴候が見られず、病院に着いたときに複数の損傷が表れることなどありえないと断言する。
シャムガール委員会は、このような外傷があったことを示す証拠はないと結論付けた。それ以降、外科医たちはこの問題について論じることを拒んでいる。シャミシュ個人の調査以外にも「事件は奥深い、陰謀がらみのものだ」という彼の主張を裏付ける証言がある。
罪状認否手続きの中でアミールはこう語っている。「もし私が真実を語れば、体制が完全にひっくり返る。この国を破壊するのにじゅうぶんなことを、私は知っている」
アミールがラビン首相を撃ったときにそばにいた、あるシン・ベットの捜査官はこう証言した。「警官が聴衆に向かって、落ち着けと叫ぶのが聞こえました。これは空砲だから、と」・・・この証言は、非公開の法廷で行われた。
同じ審理に於いて、レーア・ラビンは、夫が至近距離から撃たれたにもかかわらず、よろめいて倒れたりはしなかったと述べている。「夫はちゃんと立っておりましたし、異常は見受けられませんでした」・・・彼女はまた、自分が病院に到着してから一時間ものあいだ、夫に会うことを禁じられたと言っており、諜報の高い地位にある人物から「全て予定どおりのことであり、心配には及ばない」という説明を受けたらしい。ラビン首相の未亡人は、この件についても、また夫の暗殺に関連したいかなる問題についても、公的な発言をかたくなに拒んでいる。シャミシュは、首相が収容された病院に勤務する17人の看護婦と同じく、未亡人も沈黙を強いられているとにらんでいる。
「これは邪悪な、しかも見事な謀略だ。ラビン首相は、人気回復をえさに、狙撃の的になるよう説得されたのだ。首相が防弾チョッキを身に着けていなかった理由もそこにある。束の間の脚光を浴びる役者として、アミールが慎重に選ばれた。彼は黒幕に操られる道具だった。自分の撃つ空砲が、病院に行く途中でラビン首相を暗殺するのにどう利用されるのか、露ほども知らなかっただろう」
【ゴードン・トーマス著『憂国のスパイ』(GIDEON'S SPIES)より抜粋、197-201頁】
ラビン首相、狂言暗殺とされる狙撃の瞬間
1---ラビン首相
2---アミール(左手がラビンに向かっている)
3.4---警官(セキュリティ・エージェント?)
5---運転手Damti
(いずれも推測)アミールに狙撃された(?)直後に、乗用車に乗せられるラビン首相(茶色の背広の人物か?)・・・どこにも血痕は見当たらないように見える。
下のほうでアミールが地面に取り押えられている。
車のドアには遮蔽シートのようなものが張ってあるように見える。セキュリティ・エージェントと思われる人物がすでに車のドアを開け、ラビンから聴衆の視線を遮るように立っているように思えるのは気のせいだろうか。