金貨710枚を渡された男、その背後のナチスと赤十字
- ジュセッピ・ベレッタという人物が、イスタンブールのドイツ・オリエンタル銀行の貸し金庫に預けられていた金貨710枚がトルコ警察に押収された件に関して、彼がナチスのために密輸入した可能性がある。このベレッタに関しては興味深い書簡が存在した。彼がICRC(赤十字国際委員会)を去った後、スイス軍諜報部長ロジェ・マソン大佐が彼を弁護する目的で赤十字に送ったものだった。マソンはその手紙の中で、彼はスイス情報機関の諜報員もしくは情報提供者であると思われるので、赤十字は『好意的な理解』をもって彼を処遇してやってほしい、と訴えた。ベレッタは1943年2月に赤十字に入社し、まずは当時飢饉に見舞われていた、エーゲ海に浮かぶギリシアへの島々への食料援助計画を担当した。同年8月イスタンブールに転属となり、トルコ内のイタリア人捕虜に援助物資を送る任務に就いた。赤十字へのナチス先入疑惑にメディアが関心を寄せつつあるのを見たICRCは最近ある報告書(1996年9月15日付)を発表したが、その中に彼の一件が登場する。
- 「彼は1945年1月『トルコ通貨保護に関する法律規定に違反し、税関への申告なしにある物品を輸入した』(ベルンのトルコ大使館がICRCに送った、1945年3月12日付の書簡)容疑でトルコ警察の捜査を受けた」
- 【資料】スイス外交官及び赤十字に関するセーフヘイブン報告書、イスタンブール、1945年5月21日、秘密解除認可書NND907172、1996年2月4日、NA
- ベレッタは金貨710枚を没収された直後に召還命令を受け、1945年2月21日にジュネーブに戻り、翌日辞表を提出し即刻受理された。710枚の金貨を巡るこの不可解な事件との関わり合いについて、彼はこの時複雑な弁明を行った。金貨はイスタンブール在住のヴィリー・ゲーツ・ウィルモスと名乗るハンガリー人ジャーナリストから渡された、とベレッタは当時証言している。ある米国諜報員からの報告書によれば、このゲーツ・ウィルモスなる人物の正体はドイツ人でゲシュタポの一員であった。現在までの調査でも、疑惑はあるが容疑を裏付けるだけの証拠も乏しい。
- 【引用】アダム・レボー著『ヒトラーの秘密銀行』八章・スパイたちの巣276〜278頁より