- 映画『サウンド・オブ・ミュージック』をもう一度観たい。その登場人物に実在の人物と照らし合わせ、当時の時代背景を加味すれば、また違った新鮮な感覚で見れるだろう。ジュリー・アンドリュース演じる家庭教師マリアの本名はマリア・アウグスタ・クッチェラ(Maria Augusta Kutschera 1905〜1987)と言い、クリストファー・プラマー演じたトラップ大佐の本名はゲオルク・フォン・トラップ(Georg von Trapp 1880〜1987)という実在の人物である。この映画はマリアの手記を元にしたもので、すでに西ドイツにおいて『菩提樹』『続・菩提樹』として映画化されていた。マリアはナチス嫌いの敬虔なカトリック信者としてトラップ家の前妻が遺した七人の子供を育て、映画では終わりまで同じ年齢の子供たちも、実際には十数年の歳月が流れ1938年にアルプス越えをした頃には大きく成長している。その後、トラップ一家がアメリカに逃れた頃にはマリアが出産したロゼマリーとエレオノーレという二人の娘が加わり、マリアは総勢九人の子供たちを抱えていた。
- エリノア・パーカー演じるシュレーダー男爵夫人(Marie Schroder)がトラップ大佐と結婚していたなら、トラップ一家は全く逆の運命を辿ったはずであった。トラップ大佐は第一次大戦中にはUボートの指揮官であり、奇しくもシューレーダー男爵が黒幕として暗躍、1933年にはヒトラーを首相に就任させている。ナチス嫌いのマリアがいなかったら、トラップ大佐は第二次大戦においてもドイツ・ナチスの高官として悲劇的な最期を迎えていたはずである。トラップ家がザルツブルグ音楽祭に出演した二年後、1938年三月にドイツ軍がオーストリアに侵攻して併合、同年五月にヒトラー自身がオーストリアに入り、トラップ大佐にナチス潜水艦の指揮を命じるが、これを拒否する。そして八月、トラップ家は一家総出でアルプス越えの逃亡に踏み切る。翌年九月一日、ヒトラーはポーランド侵攻を決意、第二次世界大戦の幕が切って落とされるのだった。【参照『予言された二十一世紀』315〜320頁】