1998年九月の日誌

日誌暦

１９９８年九月の日誌

内容

９８／０９／０１＝テポドンⅠ号・二段式ミサイル発射事件
９８／０９／０５＝タンクの仕事終了
９８／０９／０６＝毒物混入事件と心の闇に共通するもの
９８／０９／０７＝ウガンダ内戦で犠牲になる子供たち
９８／０９／０８＝黒澤監督「野良犬」映画と犯罪心理
９８／０９／０９＝差別と子供たちの未来＆プルサーマル
９８／０９／１０＝黒澤明監督追悼と作品リスト
９８／０９／１１＝風邪＆＜インフルエンザ
９８／０９／１２＝痛風再発
９８／０９／１５＝＜ジョージ・ウォレス死去
９８／０９／１６＝＜公民権運動とＫＫＫ団
９８／０９／１７＝従兄、脳幹出血（１３日）
９８／０９／２１＝人間の死と臨死体験
９８／０９／２２＝＜かごめかごめと天海
９８／０９／２３＝米国長者番付と一位ロックフェラー
９８／０９／２４＝二位＜アンドリュー・カーネギー
９８／０９／２５＝三位＜バンダービルト一族
９８／０９／２８＝従兄と障碍者について
９８／０９／２９＝死体の値段
９８／０９／３０＝イラク査察にイスラエル情報＆フセイン一族
１９９８／０９／３０、水曜

ＵＮＳＣＯＭ、イラク査察でイスラエルの情報支援受ける

　イラクでの武器査察活動行っている国連大量破壊兵器廃棄特別委員会（ＵＮＳＣＯＭ）はこの４年間、同国の保有が禁止された武器に関する第一級の情報がイスラエル政府から提供されていたことが、２９日付の米ワシントン・ポストの報道で分かった、同紙が米国、イスラエル、国連各筋の情報として伝えたところによると、イスラエル側はＵＮＳＣＯＭに詳細かつ高度なデータを提供していた。同紙によると、提供された情報は、イラクによる生物兵器開発プログラムの存在の発覚につながったほか、イラクが兵器開発プログラムを隠すために組織的に行動していたことを示す具体的証拠になったなど、査察活動に大きく貢献したという。一方、ＵＮＳＣＯＭのリッター元委員長は２８日付のイスラエル紙ハーレツで、１９９４年から９８年までの間に何度もイスラエルを訪問したことを明らかにした上で、同国の支援なしにＵＮＳＣＯＭの活動は有り得なかったと述べた。［ワシントン２８日ロイター］
　（以下、アメリカの関連記事を翻訳）イラクの最も影響力を持った新聞は火曜日にイスラエルがイラクを秘密に調べた件で、国連武器検査官スコット・リッターを告訴した。「最近辞職したシオン主義のスパイ、スコット・リッターがイラク武器の点検で重要な役割を持っていたと告白した」と、ウダイ（Uday サダム・フセイン大統領の一番上の息子）によって所有される新聞バベル（Babel）が第一面の論説で報道した。さらにバベル紙は「リッターはすでにイスラエル秘密諜報機関との近いリンクを自白している」と公表した。イラクの武器隠匿を扱っている国連特別委員会（ UNSCOM ）ユニットを率いたリッターは、イスラエルの国連武器検査官がイラクのこれまでの４年にわたる大量破壊兵器隠匿を調査するのを手伝っていたと言う。前の海兵隊の士官は彼がイラクの武器点検を実行することにおいて、クリントン大統領の経営の活動であると信じたとして抗議、先月彼のポストを辞めた。タレク・アジズが月曜日にへニューヨークで会ったアナン（Kofi Annan）国連事務局長とイラクの副首相は最近の行き詰まりの出口を見いだそうとしている。「国際連合と安全保障理事会は、最終的に状態を速やかに修正する責任がある」とバベル紙は結んでいる。
　フセイン大統領の長男ウダイは新聞バベルを所有するだけではなく、「青年テレビ」などイラクのマスコミを支配しながらイラク・オリンピック委員会やイラク・サッカー協会、バース党青年学生なども牛耳る独裁者となっている。95年8月8日にフセイン大統領の娘婿フセイン・カメル中將や弟夫婦数十人がヨルダンに亡命したのも、ウダイの貪欲で危険な性格を見抜いたからであった。ウダイの乱暴な性格は、その父であるフセイン大統領がウダイを政府の中枢から引き離しているほどである。これまでにもウダイは権力世襲を渇望しながら次々と親族を権力中枢から追放してきた。89年2月から駐ジュネーブ国連大使となったバルザン・イブラヒム（大統領の異父弟。元国家情報局長官）は「ウダイは貪欲なだけで、権力を握る器ではない」と批判している。ちなみにイブラヒム大使は300億ドルに及ぶフセイン大統領の海外資産を管理している。【参照・恵谷治著『世界危険情報大地図館』123頁】
　1991年初頭に本格的な戦闘の口火を切った湾岸戦争は、衰退していた欧米の軍需産業に破格なボーナスをもたらして息を吹きかえらせた。しかも多国籍軍を苦しめた火砲は南ア製であり、その技術はイギリスからイスラエルを経由してきたものであった。イラクのミサイル発射台もアメリカ製である。彼らはすでに湾岸戦争を仕掛ける前年に、イラクに多額の融資をしながら戦争の準備をしていた。果たして湾岸戦争における多国籍軍対イラクという敵対構図は正確なものであったのだろうか？むしろ両軍は敵国などではなく、軍需産業が世界に展示した軍事品の見本市ではなかったか。【参照『赤い盾・下』905頁】

１９９８／０９／２９、火曜

　永六輔著『大往生』の中に「病院で死ぬか、在宅で死ぬかじゃありません。誰に看取られて死ぬかなんです」というのがある。集中治療室でありとあらゆる管が差し込まれたスパゲティ状態で、家族の誰とも話せずに死んでいくのは誰とて望まないだろう。家族に看取られて死ぬには病院側の協力も必要だ。そういう意味で延命ばかりではなく、死に対する取り組み方を学習するのも病院のこれからのあり方だろう。しかし中には身元不明のまま孤独の内に死んでゆく人もいる。
　日本では捜索願いが毎年5000人は出されている。源寿院の住職によれば身元不明の遺体50体に一体は引き取り手がなく、これまで5000体の遺骨が行き当てなく保管されているという。これらは旅行中に身元不明で亡くなり、引き取り手のない死体として『行旅死亡人』と呼ばれている。中には身元が分かっても遺族が引き取らない例もあるらしい。今年二月三日の午前二時頃、サウナで心臓発作を起こして急死した中年の男性の場合もそうだった。身元調査で三重県新宮市の資産家末っ子として生まれたことが判明、その姉弟たは遺体引き取りを拒否しているという。
　引き取り手のない遺体は火葬されてしまうが、中には大学の解剖用に回すこともある。解剖学教室の教授は遺体を確保することが仕事でもあり、献体だけでは足りない分、担当医師が行旅死亡人の遺体を母校に送れば喜ばれることになる。身元不明者の葬儀は市からの補助金で形どうり行われるので葬儀社が困ることはない。相場は一体あたり170～300万円、資本主義ニッポンにおいては遺体といえども商品価値として値踏みされることになる。ちなみに、お寺における大半の無縁仏は三大新聞に三回広告を出せばお寺の権限で処分してもいいことになっている。　
１９９８／０９／２８、月曜
　従兄が倒れた日から、私も持病の通風で歩くことのできない日が続いている。通風は足の痛みが地球の重力を感じるほど敏感になる厄介な病気だ。痛くて寝返りもできない。しかも職業病でもある。松葉杖も使えない激痛に延々と苦しめられる。毎年一回は通風の発作が起きる。一ヶ月間は動けない。発作は右足と左足それぞれ三日間の激痛というリズムがある。それが過ぎれば松葉杖でも何とか歩けるようになる。今は左足の激痛が治まりつつあり、今夜あたりから松葉杖で歩く予定だ。一週間後には何とか普通に歩けるようになるはずだ。食事をするにもトイレに行くにも床を這って移動していた。知らない人が見たら驚くような光景である。そして治るとケロリとして何事もなかったかのように平気で町中を歩いている。喉元過ぎれば熱さ忘れるで、元気な日々に突然の発作が隠されていることも忘れてしまう。障碍者が町を歩くときの不便さも、歩けない今の自分なら実感できる。健常者が気にもとめない数センチの落差も、足の不自由な者にとっては乗り越えがたい障害となって立ちはだかるのだということを、這いつくばって生活していた私には理解できる。動くことのできなかった数週間というもの、そうした障害は除けないものかと考え続けていた。
　そんなときラジオの「老いを生きる」という番組で、車椅子の生活を余儀なくされている新田さんという人の体験談が聞こえてきた。身障者である彼は「自分でも役に立つことが何かあるはず」と考えはじめ、体は動かなくても口はきけることに気付く。そこで彼は目の不自由な人のために、本の内容をテープに録音することを考えつく。まず訛を矯正し録音を始めたが、録音ボタンを押すこともままならぬことに気付く。そこで録音ボタンを改良して軽くタッチするだけで動くようにする。さらに新田氏は老人ホームなどを訪ね、食事をするときに口元まで食器を運べないこと人が多いことを知る。食器に口元を寄せることすらできない。何とかならないものか、そう考えた新田氏は自分で食器をつくることを考えつく。まだ指先は動く、できないわけがない。こうして彼の挑戦が始まるのだが、やがて皿の中央に突起を付けたユニークな食器を完成させる。その突起にはカップがあり、ストローから吸い込むようになっていた。さらに手の弱っている人でもカップを持てるような形状にしたり、新田氏の挑戦は今も続いていると言うのであった。障碍者の立場に立った上でのこうした食器はマスコミにも取りあげられ、今では問い合わせが殺到しているという。
　新田氏は言う。障害というマイナスの負担もそれを掛けるとプラスになる。マイナス掛けるマイナスはプラスになると言うのである。新田氏のやっていることはそのままそれを実証している。障害を背負ってはじめて、今まで見えていなかったみのが見えてくるのだ。健常者なら気付かない僅かな落差の障害も、身障者にとっては基本的な生活さえ阻害される落差となる。その落差を埋めることで解決できるなら、人の心の落差を埋めることだって出来るはずだ。相手の立場でものごとを考え、何より不自由を強いられる人々の目線で見るということ・・・私の持病を通じてそのことを考えさせられた。そういう意味でも私の持病はマイナスではない、掛け算としての挑戦があるのだと。
１９９８／０９／２５、金曜
バンダービルト一族
１９９８／０９／２４、木曜

カーネギー（Carnegie）

１９９８／０９／２３、水曜

ビル・ゲイツ氏、史上５番目の富豪

１位は故ロックフェラー氏－米誌番付

　【ニューヨーク２１日時事】米コンピューターソフト最大手マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は米国史上で５番目の富豪―。米誌フォーブス・アメリカン・ヘリテージ最新号（１０月号）は現在の貨幣価値で換算し直した米国の長者番付を掲載した。それによると、トップは石油大手スタンダード・オイルの創業者ジョン・Ｄ・ロックフェラー氏（１９３７年死去）だった。それによると、ロックフェラー氏の資産は現在の貨幣価値では１８９６億ドル（約２５兆４１００億円）となり、ゲイツ氏の６１７億ドル（約８兆２７００億円）の３倍以上となる。ロックフェラー氏の資産は当時の米国の国民総生産（ＧＮＰ）の４４分の１に達していたとみられる。２位は鉄鋼王と称されたアンドリュー・カーネギー氏で、３位には造船や鉄道を経営したコーネリアス・バンダービルト氏がつけている。［時事通信社］
　これら世界的な大財閥についてはこれまで何度も書いてきたが、そろそろ整理しながら書いていきたいと思う。一族の破廉恥漢として悪名高いジョン・Ｄ・ロックフェラーがどのようにして財を成してきたか？『競争は罪である』といった白々しい格言を口にしてきたジョン・Ｄ・ロックフェラーだが、一方ではその競争相手を汚い手口で葬ってきた犯罪者であった。マシュー・ジョセフインは著書『盗人男爵』の中で次のように暴露している。
「事業規模の拡大を計ったスタンダード石油は、平和的な手段で目的を達成できない会社に対しては暴力を使った。ロックフェラーの忠実な部下たちはダイナマイトの使い方さえ知っていた。バッファローにあるスタンダード石油のダミー会社、バキューム石油に競争相手が出来たとき、彼らは何をしたか。相手の会社はバキュームに対して湖に沿った有利な場所に石油精製工場を建てようとしていた。そこでロックフェラーの部下たちは威嚇キャンペーンを展開するが、それに失敗すると敵の機械工主任を丸め込む。一介の労働者にとっては充分な報酬をちらつかせると、数日後にはパイプと蒸留器に異常が発生して、小さな、しかし致命的な爆発が起こったのである」
　ジョン・Ｄ・ロックフェラーは自分の会社からスパイを次々と輩出しながら、各地に秘密組織を設置し、不正を取り締まるべき権力中枢をも味方に付けていった。こうした悪行が後のCIA設立に役立つのである。それにしてもマスコミはこうした史実をなぜ付け加えないのであろうか？ロックフェラーは泥棒一族であったと、商才以上に詐欺師の才能に恵まれていたと、何より犯罪者であったことを知らせるべきではないか。『金が「現代の神」である』としたロスチャイルド家の友人ハイネの言葉を借りるなら、ロックフェラーもまた現代の神であり、支配者となる。ジョン・Ｄ・ロックフェラーのもう一つの顔は信心深い表情で現れるが、彼が寄付し支援する教会が惰天使ルシファーを崇める悪魔のルシス・トラストに組み入れられている事実は、彼の正体を如実に物語るものである。
１９９８／０９／２２、火曜
　南光坊天海と明智光秀・同一人物説を童歌「かごめかごめ」と関連づけて書いてみた。「阿修羅掲示板」にも転載したが、まだまだ謎は残る。「黄金伝説シリーズ」として、これから終戦後の隠匿物資についても書くつもりだ。ちょうど『ヒトラーの秘密銀行』を読んでいる最中なので、スイス銀行を絡ませれば面白い展開になるかも知れない。紀元前一世紀のピュブリリアス・シルスの格言『金だけがすべての世界を動かす』は、後に『金は現代の神である』と詩人ハイネによって確認された時、この世は地球レベルで支配されることも同時に予言していた。何となればハイネは次のように続けたからである。『そしてロスチャイルドはその予言者である』と、ハイネ自身がロスチャイルド家の友人であった。悪魔は神を装う。そして今、ロスチャイルド家はカリフォルニア州ナパ・ヴァリーにおいて悪魔の神殿『オーパス１』を完成させた。
１９９８／０９／２１、月曜
　人間の死を語ることを、ことさら忌み嫌う人がいる。縁起でもない、と言うのだ。そういう人にとって死は呪われるべきであり、マイナス思考そのものなのだ。しかし人生において人間の死亡率は100パーセントであり、例外なく人間は死んでいくことには変わりがない。死期を目前にした人に「大丈夫」と励まし、「助かるから安心しなさい」とまで言う時、それは嘘をついてまで励ますことになる。母の時もそうだった。すでに死期を悟った母に「大丈夫、頑張って」と、もはや頑張ることの出来ない末期ガンの母を励ます見舞客を見るたびに『何か変だ？』と思ってきた。そこには死にゆく者と、生きる者の隔たりがどうしても見えてきてしまうのだ。励ましが時として残酷さを帯びる瞬間でもある。
　医療が発達している現代、臨死体験を経験する患者も多くなってきたといわれる。その多くが『あの世は至福の世界だった』と証言し『生き返って苦しむ』ことを拒む心理状態になる。それは釈迦の『この世は苦そのものである』との教えにも通じる。苦を悟ればこそ『すべては相依性にして、縁ありて起こり、それに反してすべての計らいをやめ、すべての所依を捨て去れば、喝愛尽き、滅し尽くして、涅槃に至る』という境地を得るのである。延命治療を前提とする近代医療は「死は敗北」とする西洋哲学の継承そのものであり、やがて受け入れなければならない死に心を同化させることすら拒んでいる。それは死をより恐怖させることでしかない。
　私を含めて、助かる見込みのない患者を見舞う時、その病室のドアを開けた瞬間から空気には死への恐怖が立ちこめる。患者は見舞客の励ましの嘘を見抜きながら疲れ果ててしまう。たった一人で死んでいかなければならない孤独を癒やすことなしに、嘘で固められた励ましの言葉を聞かねばならない苦痛のことを・・・見舞客は考えねばならない。そっと手を握りしめ、死を目前にした者の未知への恐怖を分かち合う、厳粛な瞬間の持続こそ必要なのではないか。神に召されていく者の至福のための道程として、死は一瞬の闇にすぎない。　
１９９８／０９／１９、土曜
　父や母がいて、何気ない平凡な家庭の風景の中で、確かに自分が守られてきたという幼児期の記憶が、暖かい温もりと共に思い出される時がある。そうした平凡な歳月が、あたかも永遠に続くような錯覚を保ちながら、ある日突然に断ち切られる時・・・人は愛するものを失ったことで悲嘆し、途方に暮れる。人は老い、病み、死んでいく命のありようを、この瞬間に否応なく悟らされるのだろう。私もそうだった。
　従兄が倒れた時、傍らには息子が居た。ひとりだったら、そのまま屋根から転落していたかも知れない。意識不明のまま救急隊員によって屋根から地面へ、そして救急車で病院へと運ばれた。私の父も事務所で倒れる寸前には、息子の私が側にいた。そして父は救急車に乗せられ、三日後に息を引き取った。父も私も、従兄とその息子同様、ほぼ同い年なのが因縁を感じさせる。握りしめた親の手が段々冷たくなっていく感覚、息もたえだえに生死をさまよう肉親を直視しながら、自分では何もしてやれないもどかしさを感じていた。そして呆気ない肉親の死、茫然自失に廊下から聞こえてきた赤ん坊の産声・・・死んでゆく者と、生まれてくる命。季節の移り変わりのように、人もまた生まれ、死に、また何処かで誕生する・・・季節のようだ。そのことを理解するには父の死から随分経った後のことだった。
　ここ数日、従兄のことが気がかりで眠れない夜が続いている。本人にも何度も無理をしないよう忠告さえしてきた私は、何故か虫の知らせを感じ取っていたかのようでもある。父の時もそうだった。どういうわけか最後の写真は私が撮ったものになる。今年になって従兄は突然『清水の源』と呼ばれる湧き水を飲みたがり、二人で山奥に分け入って湧き水を探し、飲んだ。その時の写真もある。こんなことは初めてのことだった。あの時の水を飲ましたら助かるかも知れない、などと昨夜は思っていた。病院に隔離された今はそれもかなわないだろう。スパゲティと言われる人工呼吸器などのチューブを引きちぎって従兄を連れ出し、あの湧き水『清水』をもう一度飲ましてやりたい。従兄にとって命の水であるように・・・
１９９８／０９／１８、金曜
　医師から「助かる見込みはない」と言われたと従妹が電話口で泣いている。彼女は入院した従兄の妹で、皮肉なことに兄が入院した病院で看護婦をしていた。集中治療室で毎日瀕死の兄と向き合わなければならない自分の宿命を呪ってもいた。「少しでも助かる見込みがあるなら希望も持てる。しかしこのまま兄が死んでいくのを黙って見守るしかないのは死ぬより苦しい」と言うのだ。その従兄は何とか意識があるものの、視力が弱って目が見えなくなってきている。まだ死にたくはない、そんな兄の意志表示に胸を詰まらせる彼女である。何より残していく妻や子のことを考えれば、このまま死んでいくのは実に口惜しいのであろう。人生の幕切れにカーテンコールはない。従妹の悲嘆に私は言うべき言葉を失っている。死にゆく者に捧げる言葉があるとすれば「チベット死者の書」しかない。チョエニ・バルドゥ（存在本来の姿の中有）より・・・
　ああ、善い人よ、今や『私は死んだ』という、例のあのものがやってきたのだ。この世界から外へ行くのは汝ひとりではないのだ。死は誰にでも起こることである。この世の生に執着や希求を起こしてはならない。執着や希求を起こしても、この世に留まることは不可能である。汝は輪廻し彷徨い（さまよい）つづけるほかはないのだ。執着してはならない。貪りを求めてはならない。三宝を思い続けるべきである。
　「人間は死を恐れる、そのことに恐怖する」と言われる。死それ自体には恐怖はない。未知の世界に旅立たなければならない恐怖、肉体の崩落の向こう側に何が待ち受けているか分からぬゆえに、人は死を恐れる。「人は死ねばゴミになる」と達観して死んでいった検事総長がいた。それは理性の勝利だと思いたいが、果たしてそうではないだろう。死を目前にしてはいかに理性的な人間であろうが、丸裸の一個の人間に気付く筈である。受け入れるしかない死を前に、人間は人間でしかない知力の限界を悟る。その時になって「自分の意志によって生きてきた自我」ではなく「生かされてきた自分」に気付かされるのだろう。　
１９９８／０９／１７、木曜
　今、従兄が死線をさまよっている。屋根で仕事中に脳幹出血で倒れたのだ。転落しなかっただけ不幸中の幸いだった。私も従兄も何度か足場から落下してケガをしているが、今度の場合は致命傷かもしれない。神経の束を傷つける恐れがあって手術できないという。意識があるだけ助かっているが、昏睡状態になれば危険信号となる。つまり助かる見込みは少なくなる。倒れる数日前に私と話をしたばかりだった。顔がむくんでいるので「血圧に気を付けた方がいいよ」と私が言うのを「大丈夫」と笑っていたっけ。死ぬ時は死ぬんだ、とも言っていた。働くことが生き甲斐のような従兄で、昔は私の父の片腕として働き、独立して会社を興したのだった。最近は人が変わったように穏やかな笑みをたたえていた。今も病床にありながら脳裏では仕事のことが忘れられないと思う。かつて転落して入院していた時は、病院から抜け出して仕事を続けたくらいの従兄であった。ここ数日が山場、奇跡的に助かることを祈るばかりだ。　
１９９８／０９／１６、水曜、台風五号通過中
公民権運動とＫＫＫ団　
１９９８／０９／１５、火曜
ジョージ・ウォレス死去
１９９８／０９／１４、月曜
　いくら断っても電話攻勢してくる投資会社、しつこく食い下がるのが商売だと思っているらしい。相手をまるで無視した一方的な売り込みに時折腹が立つこともある。断っても「とにかく話だけでも聞いてください」と言う。忙しいからと言っても「そこを何とか少しの時間ください」と言い張る。投資する余裕がないと言うと「少ない予算に応じた投資もあるんですよ」と畳みかけてくる。「申し訳ないけど電話切らせてもらいます」と断って電話を切る。するとまた同じ会社から電話がくる。担当者を替えての電話攻勢である。つい強い口調で断ってしまうことになる。今日の担当者は「何か気分でも害したのですか？」と追い打ちをかけてきた。電話の向こうで冷笑しているのが分かる。誠意が感じられない。相手に信頼感を与えずして商売が成り立つはずもあるまい。底冷えのするような人間社会、カネがカネを生むと錯覚している労働蔑視のマネーゲーム、経済破綻以前に人の心が破綻している。
１９９８／０９／１２、土曜
　風邪が治まったかと思えば持病の職業病が再発した。ここ数日その繰り返し、今は歩くこともできない。そんな中で不況に苦しむ訪問客が「戦争でも起こればいい」の連呼、友人すら自虐的に口にするようになった。あの第二次世界大戦が勃発した時と同じではないか。大恐慌に人々の心は荒み、そのまま戦争へと突っ走ってしまった、あの頃がまるで教訓にはなっていない。特にバブルが弾けて大損した者に戦争待望論者が多い。戦争は突然やってくるものではない。戦争を受け入れるだけの心の荒廃があればこそ、戦争は起こるのではないか。耳を塞ぎたくなるような戦争待望の声に、ままならぬ足の痛みが今夜の私を苦悩させている。おまけに私に同調するかのように擦り寄ってくる某信仰組織の信者には辟易する。エゴに翻弄された教祖の実態を突かれれば、信じて疑わぬ狂信が私をして悪魔と決めつける。あげくは私を見て「かわいそう」だと涙を流さんばかりだ。かわいそうなのはそっちだって・・・やり切れぬ人間社会の常のこと、ムクゲの白い花に乱舞する黒アゲハの蝶に目も心も奪われた午後のひととき。明日も舞ってくれるだろうか。　
１９９８／０９／１１，金曜
　激しい頭痛と脱力感「夏風邪かな？」と思っていたら事務担当の妹も同じ症状で寝込んでしまった。薬を飲んでも効かない。これって今年初頭にさんざん騒がせたインフルエンザの症状ではないか・・・ということに思い当たった。私はインフルエンザを「進化する小さなエイリアンの殺し屋」と呼んでいる。一説ではエイズより死亡率が高いとまで言われている。むろん風邪薬では効かず、ワクチンに頼るしかないが、このワクチンも危険だと言われ始めている。私も集中して調べながら、結論らしきものをこの日誌に書いてきたので、改めて抜粋する。特に子をもつ母親の皆さんに読んでもらいたい。以下、今年の二月七日の日誌より抜粋します。インフルエンザの正体には恐るべきものがあります。
１９９８／０９／１０、木曜
　昨夜も早速、黒澤明監督の追悼番組「羅生門」が放映されましたが、今後も続々放映されると思います。見逃した方のためにビデオ販売をしている会社を紹介します。解説は途中ですが、以下、黒澤明監督作品リストです。
　CD-ROMも出ています。タイトルはそのまま『黒澤明』7800円。
１９９８／０９／０９，水曜
　公園から路上生活者の姿が消えたと近所の人が喜んでいる。子供たちはバイキン狩りと称して襲いかかり、大人たちが「出て行け！」と罵倒した夜、公園から彼らの姿が消えた。民主主義の小さな勝利だ。清潔で住み良い環境をつくるため、日本中に抗菌剤が散布されたかのようだ。しかしその抗菌剤によって日本という国に免疫が無くなっていることには気付こうとしない。路上生活者を排除すべきバイキンだと思う心の、その副作用が恐ろしい闇として広がっている。彼らを同じ人間だと思えないことの絶望は深刻である。飯場を転々として過酷な肉体労働に従事しながら作った国に、今度は仕事が無いことで捨てられ、住民にはバイキン扱いされて追い出される。これほど労働が軽視される時代がこれまであっただろうか。汗臭さを誇りとしてきた労働が、ここにきて不潔の代名詞となり忌み嫌われている。私の中では「この国は必ず滅びる」という予兆が今や確信となっている。
　「もう滅びているさ」と昨夜の友人が吐き捨てるように言った。「なるようにしかならない」とも言った。いったいオレたちは何をしてきたんだ・・・次代を担うべき子供たちの未来を滅茶苦茶にし、負の遺産しか残せなかったことの責任は確かにオレたちにもあるはずだ。銀行の失態を血税で穴埋めし、福祉予算を削ってまで軍備にカネを浪費するこの国のリーダーたちに、退陣を迫るだけのことをしなかった。そのことのツケは大きいぞ。「なるようにしかならない」という前に、平和を望まない絶望のことの方が深刻だ。
　知事がプルサーマル計画を受け入れようとしている。知事の変節に脱原発グループは落胆している。昨日届いた資料には『知事の安全認識は甘い！県民を危険な実験台にするな！』と書かれてある。19日には広瀬隆氏が地元で講演を行うらしい。ここに「なるように」なって欲しくない人々の祈りがある。
１９９８／０９／０８、火曜
　黒澤明監督の初期の代表作『野良犬』は、コルトを盗まれた若い刑事（三船敏郎）が犯人を追いつめていくという社会派映画だったが、当時の映画としては珍しく犯人の心理も加味した傑作でもあった。戦後の引き揚げでリュックを盗まれ、自暴自棄になった遊佐という青年が、刑事から盗んだコルトで次々と強盗を犯していくというストーリーである。それを志村喬扮するベテラン刑事が補佐していくのだが、捜査の途中で配給のビールを飲みながら会話するシーンがある。
　『世の中には悪人はいない。悪い環境があるだけだ』そんな言葉がありますが、遊佐という男（犯人）もかわいそうですね。
　いかん、いかん、そういう考えは我々には禁物だよ。犯人ばかり追いかけていると、よく、そういう錯覚を起こすが、一匹のオオカミのために傷ついたたくさんの羊を忘れちゃいかんぞ。おおぜいの幸福を守ったという確信がなかったら、刑事なんて全く救われないよ。犯人の心理分析なんて小説家に任せておくんだな。オレは単純にアイツらを憎む。悪い奴は悪いんだ。
　ボクはまだ、どうもそういうふうには考えられないんです。長い間、戦争に行っている間に、人間てやつはごく簡単な理由でケダモノになるのを何回も見てきたもんですから・・・
　君とボクの年齢の差かな？それとも時代の差かな？なんとか言ったね、え～、あ、あぷれ・・・
　アプレゲート
　それ、それ、その戦後派というやつだよ。君も遊佐もそうかもしれん。君には遊佐の気持ちが分かりすぎるんだよ。
　そうかも知れませんね。ボクも復員の時は列車の中でリュックを盗まれたんですよ。ひどく無茶な毒々しい気持ちになりましてね。あの時だったら強盗も平気でやれたでしょう。でも、ここが危ない曲がり角だと思って、ボクは逆のコースを選んで今の仕事を志願したんです。
　そのアプリゲートにも二種類あるんだな。君みたいな者と、遊佐みたいな者・・・君は本物だよ。遊佐みたいな者は、そのアプレガエル（カエルの鳴き声）、アキレケエルだ。（笑い）
　その翌日に犯人の遊佐は盗んだコルトで強盗殺人を犯す。焦る刑事、ベテラン刑事が言う「アイツは人を殺した。人を殺した人間はいわば狂犬さ。狂犬がどんな動き方をするか、知っているかね？『狂犬に真っ直ぐな道ばかり』遊佐にはもう真っ直ぐな道しか見えない」・・・こうして犯人は殺人を犯してしまったことで自らを自滅の闇に突き落とす。ベテラン刑事はそんな犯人の心の闇を洞察しながら追いつめていく。このことは最近の一連の毒物混入事件にも当てはまる。　
１９９８／０９／０７、月曜
　子供たちが前線の先頭に立たされ、大人の兵士たちの的になって殺されているといった悲惨な現実がウガンダ内戦で起きている。こうした少年兵らの惨劇はウガンダに限らず世界の内紛地帯の各地で起きている。ウガンダの場合も10年間でゲリラによる子供の誘拐は8000人以上に達し、少年兵として訓練され戦場の的となって数千人が死亡している。逃げようとする子供が捕らえられると、ゲリラは同じ子供たちに殺すように命じる。それを拒否すれば自分が殺される。自転車に乗っているというだけで足を切断された子供もいる。敵に通報しやすいという理由だけで足を切られたのだ。聞こえないように耳を切られる。しゃべらないよう唇を切り取られる。
　これらの事実は欧米のマスコミによってやっと報告されてきている。10年以上も前から子供たちの誘拐は知れ渡っていながらマスコミは沈黙していたのである。その大きな理由の一つに、ゲリラの指導者ジョセフ・コニーが自称クリスチャンだと名乗っていることがあげられよう。彼は十戒を基本にした政権を打ち立てるという、欧米大国のキリスト教徒ウケを狙った教義をかかげてきたゆえにマスコミを黙らせてきたともいえる。十戒と言いながら、実際には教義とは正反対な略奪と虐殺を繰り返してきたのである。今のところ推測の域を出ないが、ゲリラの武器の大半は同じ教義を標榜する何らかのシンジケートによって調達されてきたものと思われる。悪魔は神の名を語って出現するという聖書の教えは正しかった。
　セントメアリー・カトリックスクールのイタリア人シスターのラケッデ女史も後悔する。10年前から子供たちが誘拐されていたことを知りながら沈黙していたことへの深い後悔である。「沈黙は犯罪」だったとして、同じ十戒の教えを標榜してきたゲリラへの裏切りを嘆く。ゲリラはシスターの留守を狙って全女生徒139人を誘拐したのだ。後を追ったシスターにはゲリラ幹部との悪魔の交渉が待っていた。「100人は返すが39人は貰う」と言うのである。ひれ伏して嘆願するシスターの願いも虚しく、39人の女生徒はゲリラによって誘拐されてしまった。
　ウガンダ政府軍はゲリラとの戦闘において、運良く（？）少年兵たちを救いだすこともある。しかしその大半はゲリラに傷つけられ、あるいは戦闘によって傷ついた痛々しい子供たちであった。何より殺人を強要されたことの心の傷は癒やしがたいものがある。前線の先頭に立たされて的になって死ぬことへの恐怖、逃げれば殺される、逃げようとする仲間の子供たちを殺さねば自分が殺される・・・少年たちは証言する。「ボクは殺せと言われて棒で叩いて何人も殺してきた。銃で、ナイフで、殺さなければ自分が殺されてしまう。命令で傷口の中に手を入れた時、その血だらけの手でモノを食べたこともありました。『殺したくない』と言った子は殺されました。銃剣で頭を刺し、ナイフで喉を切り、逃げようとする人を銃で撃ちました。何もしていない人が石で頭を泥のように潰されるのも見ました。ボクはこうして家に帰れただけラッキーです。ほかの子供たちはまだ苦しんでいます」　
１９９８／０９／０６、日曜
　毒物混入事件が日本列島で相次いでいる。比較的迷宮入りに終わりがちな性質の事件だけに、犯人の陰湿で姑息な性格が想像される。その憎悪の対象は特定の人間に限らず、社会の一般人間全てに向けられていることから実に悪質である。これは「戦争でも起こってみんな死んでしまえばいい」という心にも通じ、その「みんな」の中には犯人自身も入っていることで自虐的な傾向がある。私は一見紳士的な人たちとの対話で「戦争でも起こればいいんだ」という言葉を何度も聞いてきた。中国の洪水での犠牲者が話題にのぼった時にも「中国は人口が多いからちょうどいい」という意見が出る。そのどこにも犠牲者への思いやりがみられない、自分とは無関係とする冷淡で残酷なエゴが顔をのぞかせている。そして今回のように毒物による無差別殺人が相次ぐと「犯人は死刑にすべきだ」と言って憚らない。しかしそう言う当人が「戦争でも起こればいい」考えの持ち主であることは忘れている。そういう人たちにとっては現実の悲劇に直面しない限り、心で何を思おうと自由なのだ。犯罪の根底には心の闇や信頼できない不確かな人間社会への絶望感がある。そういう意味では人間全てに共通するのではないだろうか？つまり犯人の心の闇に共通するものが全ての人間にもあるということだ。
　北朝鮮の弾道ミサイルへの報復として、事前にその発射基地を叩く防衛手段は何ら自衛隊法に引っかからないとする考えが閣僚の間から出始めている。「殺られる前に殺れ」というわけである。このことはミサイル発射の情報を日本が事前に察知できなかったことで非常に危険なことは言うまでもないだろう。被害者意識による過剰反応で行動を起こす時、それが誤報だったら日本が先制攻撃を仕掛けることにもなる。1000億円はかかるTMDを導入しようという声も出ているが、それ以前に何十兆円という国民の血税をいただく銀行の方が問題だろう。国民にとって本当の敵は、バブルにおける失態を税金で尻拭いしようとしているドロボー銀行の方かも知れない。
　一連の毒物混入事件の背後には、犯人のそうした社会への苛立ちもあるだろう。社会の闇を敏感に感じ取ればこそ、その闇に自分の心を同化させることは簡単なことだ。マスコミの犯人探しにも「決して捕まらない」という犯人の確信が全国に連波して、次々と悪魔の波長が波紋を広げていく。チャップリンの映画おいて殺人者の主人公に「万人殺せば英雄だ。一人殺せば殺人者」と言わしめた弁明は、そのまま毒物混入事件の犯人に当てはまる。そして全ては犯人の心の闇に起因する。心の闇に必要なのは希望という光である。犯人を死刑にする以前に、闇を照らす希望によって打ち砕かれねばならない心の悪魔がある。犯人の心の悪魔を取り除くことなしに、物理的な処刑という犯人の肉体的消去を行うのであれば「死刑になってもいい」悪魔の勝利宣言によって原罪は残るだろう。原罪の本質は憎悪だ。そしてそれは犯罪者と刻印された特定の人間ばかりではない、私を含む全ての人々に共通する原罪である。人は現実に犯罪行為を起こさなかったという理由だけで裁かれないが、心の中では数限りない罪を犯しているはずだ。人を憎んだことのないと言い切れることのない限り・・・私もまた自分の中では罪を犯してきた犯罪者である。
　忌まわしい戦場における累々たる死体の山がテレビで放映される時、その犠牲者の肉体を貫通した銃弾の所在を追う目は皆無に近い。しかしそれは我が身に起こった現実と錯覚する心眼で見るなら、自分の命を貫いた弾丸の軌跡を見失なうことはないだろう。そして時間は逆行する。弾丸が硝煙の匂いと共に銃口に吸い込まれ、引き金を引く兵士の指と殺意にまで心が到達する時、それはそのまま全人類の原罪を感じることでもある。そして兵士の持つ自動小銃は世界の各地から集められていることにも気付くだろう。勤勉な労働によって作られた部品が、瞬く間に集積して兵器に完成していく様は現代の恐怖そのものだ。その恐怖は罪の意識のない労働ゆえの産物ゆえに深刻である。その意味において人間もまた巨大なシステムにおける部品である。システムそのものの悪意を見抜くことなしに、部品に甘んじることの安易さは捨てがたい生活の基盤でもある。
　しかしながら、放たれた銃弾によって一人の人間が死ぬということ、殺される人間の悲痛は残された家族の悲痛でもある。自分の人生が一発の銃弾によって突然断ち切られる恐怖こそ、その銃弾を放った殺す側の恐怖とならねばならない。それを打ち消す愛国心こそ悪魔の所業であり、敵もまた同じ命ある人間であることを麻痺させる魔薬である。群衆のデモ鎮圧に向けられた銃口に一輪の花を差し入れる青年の写真を思い出す。私たち人類にできることは、世界中の銃口に花を差し込み続けることなのかも知れない。　
１９９８／０９／０５、土曜
　昨日で仕事が一段落したけど、私にとっては厄日だったようだ。元請けの新システムが稼働したため大規模なリストラが現実のものとなるのだ。来るべきものが来たという感じ。そんな不安があったためか、足場から足を踏み外して転落しそうになる。死が身近にあることを実感させられた。足場は組み立てる時より解体の方が危険なのだ。私の油断なのだが、最上部で外したパイプの上に乗ってしまったのである。とっさに体の方が反応して転落は免れたが、足をパイプの反動で傷つけてしまった。こんな打ち身は至る所にあるが、不幸中の幸いで命だけは助かっている。死が微笑みかける瞬間でもある。自分の寿命もここまでか・・・という瞬時の想い。昨夜はひたすら酒を飲み続け、そりまま深い眠りに陥った。死んだように眠った。眠るように死にたいと願いながら、現実には転落して地面に打ち付けられた自分の潰れた肉体を想像している。永六輔の『大往生』に「当人が死んだことに気付いてないのが大往生だ」というのがある。そういう意味では転落して首の骨を折って瞬時に死ぬかも知れない私こそ、大往生のチャンスが多いことになる。有り難いことだ。
１９９８／０９／０１，火曜
＜北朝鮮ミサイル＞日本海向け発射　本土上空越え着弾か＝再々替（毎日新聞）
　在日米軍司令部から防衛庁に３１日入った連絡によると、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）から日本海に向けて弾道ミサイル１発が同日昼、発射された。防衛庁は同日夜、ミサイルは２段ロケット式の「テポドン１号」で、弾頭が日本上空を横切り三陸沖の東方数百キロの太平洋上に着弾した可能性が高いことを明らかにした。北朝鮮が１９９３年に行った弾道ミサイル「ノドン１号」の発射実験は日本海に着弾しているが、日本上空を飛び越えた事例は初めて。日本政府は同夜、北朝鮮国連代表部に強く抗議した。北朝鮮をめぐっては金正日（キムジョンイル）朝鮮労働党総書記の国家主席就任が間近いことや、米朝高官協議再開が予定されている。北朝鮮のミサイル発射で北東アジア地域の緊張が高まるのは必至だ。　（２、３面、社会面に関連記事）　日本政府に入った情報によると、北朝鮮は同日午後０時７分、東部海岸からミサイルを発射した。監視していた米軍はただちに「早期警戒情報伝達システム」を通して防衛庁に伝えた。防衛庁の河尻融防衛審議官は同日深夜の会見で、「総合的な情報の分析」として、三陸沖数百キロの公海上に着弾した可能性を指摘。ミサイルの種類としては、飛行距離を「千数百キロ」としたうえで「（発射地点からの）距離からみてテポドン（１号）の可能性が考えられるが、確認されていない」と語った。
　これに先立ち韓国政府は、着弾推定地点について北緯４０度１１分、東経１４７度５０分の太平洋上で、青森県三沢市の東北約５８０キロの太平洋上にあたる、と発表した。防衛庁は１日早朝から、着弾したとみられる海域に海上自衛隊の艦艇や航空機を派遣してミサイルの捜索を行う。ミサイル発射直後に防衛庁が米軍から入手した情報では、着弾地点について日本海北部の能登半島から北北西に約４５０キロ、ロシア・ウラジオストクから南東に約３００キロ、北朝鮮の最も近い東海岸から約３５０キロの公海上となっていた。河尻審議官は、日本海への落下情報について「ミサイルのブースター部分（発射装置の一部）の可能性はある」と述べ、ミサイルが高度上空を飛行中、ミサイルの１段目にあたるブースター部分を落下させたとの見方を示した。
　北朝鮮による弾道ミサイル発射を確認したのは２回目となるが、日本政府は今回、日本上空の成層圏をミサイルが実際に飛んだことを極めて重視。政府筋は「国内の陸上に落ちたら大変だった。故意に日本を狙ったのか（外交ルートを通じ）確認する」と語った。野中広務官房長官は同日夜、「わが国の安全保障や北東アジアの平和と安定、大量破壊兵器の拡散という視点から極めて遺憾である。厳重に抗議する」との談話を発表した。［毎日新聞９月１日］ ( 1998-09-01-01:23 )
　今回の北朝鮮によるテポドンⅠ号・二段式ミサイル発射事件では、93年のノドンⅠ号と同じ場所から発射されたものと報道されている。ここは北朝鮮東海岸沿いのミサイル試射場「舞水端（ムスタン）」があり、近隣には地下ミサイル基地（能徳山）、核研究施設（化成＆金策キムチェク）、核兵器訓練センター（吉州キルジュ）などが集結しているところから、実際には核ミサイルの発射基地とも考えられる。北朝鮮の弾道ミサイル「テポドン」発射はアメリカの思う壺になった。すでにアメリカは米朝合意による軽水炉転換が実現しなくとも、北朝鮮が核兵器に必要なプルトニウムを持っていることは知っていたはずである。金正日の暴挙とも思えるミサイル発射の背後には、そんなアメリカに対する北朝鮮の示威が隠されているような気がしてならない。このことはかつての日本が経験してきたことであり、アメリカの巧みな誘導に乗せられることへの危険を感じさせられる。