イラク香田さん人質事件-2004/10
進展なく「撤退期限」 イラク日本人人質事件
【バグダッド28日共同】イラク日本人人質事件は28日、香田証生さん(24)=福岡県直方市出身=の殺害を予告したイスラム過激派が陸上自衛隊の撤退期限とした同日夜(日本時間29日未明)を前に、有力イスラム聖職者組織が仲介協力を事実上断念。犯人側との交渉が実現せず解放に向けた動きのないまま、事件は重大局面を迎えた。日本政府は緊迫感を募らせ、米軍などによる救出作戦も視野に、香田さんの所在確認に全力を注いだ。
政府はイラク暫定政府と緊密に連絡を取り合っているが、小泉純一郎首相は28日夜、記者団に「まだ(拘束)場所などは分かっていない」と難航ぶりを認めた。
香田さんの母節子さん(50)と兄真生さん(26)は同日、中東の衛星テレビ、アルジャジーラで解放を訴えるため上京し取材を受けた。町村信孝外相も同テレビに出演、解放を訴えた。
「何とか助けて」と手紙送付=香田さんの両親が小泉首相らに
町村信孝外相は28日の衆院イラク復興支援特別委員会で、イラクで武装組織の人質となった香田証生さんの両親から、小泉純一郎首相と外相あてに手紙が届いたことを明らかにした。手紙の中で両親は「息子に不手際があったが、何とか助けていただきたい。政府、マスコミ関係者の協力に感謝する」と記している。
自衛隊のイラク撤退拒否を歓迎=拘束の香田さん救出であらゆる支援−米
【ワシントン27日時事】米国務省のバウチャー報道官は27日の記者会見で、香田証生さんがイラクで武装勢力に拉致された事件に関し、小泉純一郎首相が武装勢力の要求である自衛隊撤退を拒否したことを歓迎した。
同報道官は「小泉首相が、日本はイラクから自衛隊を撤退させず、テロに屈することはないと明言したことを歓迎している」と強調。さらに、「自衛隊はイラクで極めて重要な人道支援を行っている」と評価した。
また、パウエル国務長官が町村信孝外相に電話で、事件解決に向けあらゆる支援を行う考えを表明したと述べるとともに、イラク治安部隊や多国籍軍、バグダッドの米大使館が香田さんら人質を救出するため緊密に協力していると語った
首相「撤退はしない」
イラクの日本人拉致事件を受け、小泉純一郎首相は二十七日午前、人質解放に全力を尽くすとともに、自衛隊の撤退要求には応じないよう細田博之官房長官に指示した。
小泉首相は二十七日、兵庫県豊岡市内で記者団に、「人質の救出に全力を尽くす」と述べるとともに、「自衛隊は撤退しない。テロを許すことはできない。テロに屈することはできない」と強調、自衛隊を撤退しない方針を明言した。
首相官邸に一報が入ったのは同日午前六時十分。六時四十分、首相官邸危機管理センターに「対策室」を設置、情報収集を急いだ。
首相が首相秘書官から連絡を受けたのは六時二十分。豊岡市の視察のため、羽田空港に向かう車中だった。その後、自衛隊機内から細田官房長官に電話し、(1)事実確認に全力を尽くし(2)解放策を至急検討し対応に万全を期す−ことを指示した。
この後政府は、九時三十五分、関係閣僚による「邦人人質事件対策本部」(本部長・細田官房長官)を開催。イラク暫定政府や関係各国など、あらゆるルートを通じて武装組織との接触を図り、解放を求めていく方針を確認した。
細田官房長官は記者会見で「自衛隊とは全く関係のない民間人を人質にとった許されざる行為だ。解放に全力を尽くしたい」と述べた。また、「(イラクは)何度も退避勧告が出ている地域であり、残念だ」と語った。
一方、外務省も午前七時に対策本部(本部長・町村信孝外相)を設置、谷川秀善外務副大臣をヨルダンのアンマンに派遣し、現地対策本部を設置することを決めた。外務省は今月二十一日に香田さんのヨルダン出国、イラク入国情報を現地大使館経由で入手、行方を捜していた。
一方、外務省の竹内行夫事務次官は二十七日午前、ベーカー駐日米大使と電話で会談し、日本政府が自衛隊をイラクから撤退する考えのないことを伝達。ベーカー大使は「敬意を表する」と述べ、日本政府の方針を支持するとともに米政府として人質解放に向けできる限りの協力をする考えを示した。
ビデオ「48時間が期限」 「ザルカウィ組織」声明 対米、活動を活発化
【カイロ=加納洋人】イラクで日本人、香田証生さんとみられる男性を拉致し、「イラクから自衛隊を四十八時間以内に撤退させなければ、(香田さんを)斬首する」としているザルカウィ容疑者率いる「イラク・アルカーイダ聖戦機構」。同組織は、拉致した外国人を相次いで殺害、テレビやインターネットを通じて斬首場面を公開したり、自爆テロを行うなどの残虐な手口で、活動を活発化させている。
米軍は、イラク中部ファルージャに潜伏しているとみられるザルカウィ容疑者に対する攻撃を繰り返し行っているが、これまでのところは同容疑者の殺害・捕捉には成功していない状況だ。
ザルカウィ容疑者は昨年のイラク戦争前から同国内に滞在。サダム・フセイン旧政権とのつながりは不透明だが、今月に入ってからは、国際テロ組織アルカーイダを率いる「ウサマ・ビンラーディン氏に忠誠を誓う」との声明を発表、組織の名前も変えてアルカーイダの関連組織としての路線を強化したばかりだった。
同容疑者の組織は、外国人を拘束した際、極めて対応が難しい解放条件を突きつけることが多く、多くの人質は殺害される結果に終わっている。九月に米国人二人と英国人一人をバグダッド市内で拉致し、イラク人の全女性囚人釈放を要求した際には、最初に米国人二人が殺害された後、残った一人について英国政府が水面下で解放工作を行ったが不調に終わり、この人質も斬首された。
また、今月二十四日には、イラク暫定政府の管轄下にある国家保安隊の新入隊員約五十人が非武装で帰隊する際、警察を装って呼び止めて後頭部からの銃撃で「処刑」したことを認めるなど、テロ行為の対象はイラク人にも広がりつつある。
ザルカウィ容疑者の組織の勢力は不明だが、イラク各地で自爆テロや拉致を頻繁に繰り返していることから、相当程度の組織力を維持しているとみられる。バグダッド中心部の米軍管理区域(グリーン・ゾーン)内で今月十四日起きた爆弾テロでも「自爆攻撃」を認め、米軍中枢部まで攻撃可能なことを示した。