張恵妹をめぐる両岸の駆け引き
発信:2001/01/04(木) 12:13:23
【東京 有田直矢】最新のアメリカ『ニュースウィーク』によれば、台湾の張恵妹には全く政治的な興味はないが、北京の指導者は彼女に政治的興味を持っていると指摘、去年12月に台湾に復活したこのアイドルが大陸に渡ることの難しさを改めて示唆した。
2年前、大陸はこの台湾のアイドルに世界最大の市場への進出の絶好の機会を与えた。一般的に、共産党政権としては彼女を利用して、大陸の台湾に対する主権の合法性を打ち出したかったためといわれている。大陸で行われた唯一のコンサートでは政府の広告は彼女を台湾の「少数民族」の大スターとして喧伝し、暗に台湾の原住民が大陸側の統治下にあることを指し示していると揶揄された。
確かに張恵妹は台湾原住民の出身であるが、それが政治的に利用されたことはもちろん彼女側の本意ではない。しかし、去年5月20日の陳水偏総統就任式で独唱、大陸側はこれを彼女の大陸に対する「裏切り」と判断、各地で彼女のCDや広告が禁止された。
台湾側はこの大陸側の抗議に猛反発、北京の指導者は依然文化大革命時の手法で政治問題を処理していると批判した。台湾の呂秀蓮副総統は、北京は「一人のか弱い娘さんをだまし」、「血肉を分けた同胞、兄弟姉妹をまるで敵のように扱う」と憤激をあらわにした。
台湾独立派の陳水偏総統の就任式に登場した彼女を台湾独立支持派とみなした大陸側の手法が文革時同様のものであるかはどうか別として、何事も政治的に利用しようとする姿勢は否定できない。就任式に彼女を起用した意図も明らかであり、台湾側にも問題がないとはいえないが、何よりも彼女自身が両岸関係の政治的闘争の被害者になったことは変わらない。大陸と問題を起こした後も毛沢東バッチを「ファッション」として身につけていた彼女の感覚を両岸の指導者が理解する日は遠そうだ。
(サーチナ・中国情報局)
張恵妹と呂秀蓮 今輝く台湾女性
2000年07月05日(水)
台湾研究家 船津 宏
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呂秀蓮 |
5月20日に行われた台湾大統領就任式で国歌を熱唱した国民的人気歌手、張恵妹(アメイ)が、中国共産党からバッシングされている。コカコーラ社からの依頼で出ていたテレビCMは、一夜にして放送中止に。また、副大統領の呂秀蓮は、トップの陳水扁よりもむしろ矢面に立たされて、中国からひどい「文攻」(日本語では「口撃」とでも訳せば良いか)を受けている。しかし、この台湾の二人の女性は、外圧に負けず、意気軒昂なところをみせている。今輝いている台湾女性を紹介する。
●政治舞台で女性が袋叩きに
6月に台湾で開催された第5回全国女性会議で、呂秀蓮は「私が30年前に書いた『新女性主義』の本を、(意識の遅れた)中国に送ってやりましょう」とスピーチ、会場を沸かせた。また「陳大統領は英明な人物です。女性の私を中国に対する悪役にして、政治を進めている」と会場の笑いをとる余裕もみせた。
実は、当初、女性の副大統領候補はよろしくないと民進党内でも反対意見があったが、陳水扁が反対派を抑えて呂とのコンビを決めた経緯がある。台湾では「両性共治」が政治テーマのひとつになっている。外国から政治問題で女性がバッシングされるのは日本では例が思い出せない。それだけ台湾の女性が社会の表に出て活躍していることを最近の事件は示している。
呂秀蓮は「台湾と中国は遠い親戚で近くの隣人」「一つの中国が中華人民共和国のことならば、台湾人は当然、中国人ではない」と当たり前のことを正々堂々と発言している。このコラムは主に「中時晩報」の呂淑媛記者(女性)の記事をあらすじにしていることをお断りしておこう。
呂秀蓮によると、共産中国の言っていることは、一家の主人(男性)が「俺が死ねと言ったらお前は死ぬのだ」という時代遅れの家庭内暴力と同じ「君父思想」だという。「俺が一つの中国と言ったら、お前は認めるのだ。そうしたら何でも話し合ってやろう」はまさにそれだ。
同副大統領は、「新世紀、新アジア観念」を唱えており、それは「EU統合」の観念に沿っている。かつて争ったドイツとフランスが同じEUに入るような形での中国と台湾の統一を提唱している。
それにしても、蔡英文大陸委員会委員長(対大陸外交の最重要部署)といい、鍾琴行政院発言人(官房長官に相当か?)といい台湾では女性が大活躍している。いずれも論理が明快で世界の情勢に通じており、納得できる発言ばかりだ。
どこかの国の「ガンコに○○」「ダメなものはダメ」とか言って論理展開を無視、世界の趨勢から取り残されている政治家とは大きな違いがある。
ところが正しいことを言っているだけに、共産党の反撥も半端なものではない。怒り心頭という感じで、呂秀蓮は徹底的に叩かれている。
●客観的報道は禁止
香港のテレビが呂秀蓮インタビューを放映したら、共産党の駐香港代表機関の高官が「台湾の主張をニュースとして客観的に報道することのないように」(読売新聞の報道から引用)香港マスコミに警告。「『一国二制度』と言っても所詮、この程度」と世界に知らしめた。
張恵妹は、かつてテレサ・テンがそうであったように、大陸の音楽界で旋風を起こす天才歌手。「雪碧」は清涼飲料「スプライト」のことだが、そのCMで人気のあった張恵妹をテレビから抹殺、広告看板も取り外された。就任式典の前にコカコーラ社からこういう事態の恐れもあると事前に相談があったが、歌姫はそれを承知でステージに上がった。その心意気が小気味良いではないか!
昨年9月21日の大地震の時、公演先のシンガポールからポン、と送った10万米ドルの(彼女たったひとりの)義援金は、いろいろ勿体をつけて通知された大陸(13億人)からの第1回目の送金申し出額と同額だった。
孤独な祖国のために大らかに歌う天才はまだ26歳。少数民族出身であるハンデを跳ね返しての大活躍である。(船津レポート2000年07月04日)
<萬晩報>