参院委採決を省略、公的資金新法成立 不信任案提出へ

 来年4月のペイオフ全面解禁を控え、地域金融機関の再編・強化を目指す金融機能強化法(公的資金新法)など金融2法が14日夜、自民、公明の賛成多数で参院本会議で可決、成立した。会期末を16日に控え、成立を急ぐ与党が、財政金融委員会採決を省略し、本会議で円より子委員長(民主)に中間報告をさせたうえで異例の採決に踏み切った。年金改革関連法に続く与党の強硬な国会運営に野党は反発を強めている。民主、共産、社民の野党3党は14日の国対委員長会談で、15日午後に小泉内閣の不信任決議案を共同で提出することで合意。与党は同日中に衆院本会議で否決する方針だ。

 中間報告は国会法56条に定められており、委員会で法案の審査が遅れ、議決の見込みが立たない場合、委員会採決を省略して直接、本会議で採決できる。円委員長は中間報告の中で「年金法案の強行採決に続く金融2法の中間報告は全く不本意だ。憲政に汚点を残す。参院を否定し、民主主義の根幹を否定する」と与党を批判した。

 金融2法は4月下旬に衆院を通過したが、参院の委員会で実質審議が始まったのは今月3日。これまでの審議時間は約4時間しかない。年金法の採決を巡る混乱のあおりで廃案の可能性も取りざたされたが、会期末を直前に与党が成立に舵(かじ)を切った。

自衛隊「指揮権は日本に」 多国籍軍参加で首相が見解

 小泉首相は14日の参院イラク復興支援・有事法制特別委員会で、主権移譲後のイラクで編成される多国籍軍に自衛隊を参加させる考えを改めて表明したうえで、「多国籍軍に参加しても、自衛隊の活動は日本国の指揮下に入り、日本の主体性をもって活動する」と述べた。ただ、それがどう担保されるかの根拠は十分に説明されていない。政府は一両日中にこうした点を整理した統一見解をまとめたうえで、18日にもイラク特措法の施行令に多国籍軍駐留の根拠となる国連安保理決議1546を加える閣議決定をする方針だ。

 多国籍軍に自衛隊が参加できるかどうかは、日本が独自の指揮権を確保でき、他国の武力行使と一体化しないことが担保されるかどうかが最大の焦点となっている。公明党の神崎代表は14日の政府与党連絡会議で(1)多国籍軍の指揮下に入らない担保が必要(2)活動は非戦闘地域に限定(3)イラク特措法の人道復興支援活動に限る(4)他国の武力行使と一体化しない――の4点を指摘。首相に明確にするよう求め、首相も対応を約束した。

 国連安保理決議1546は、多国籍軍の指揮について「unified command」の下に置かれるとし、一般に「統一された指揮」と訳されてきた。この点について政府高官は14日夕、「日本語では『統合された司令部』であり、指揮権を表すものではない」と語った。政府としては、多国籍軍に参加することが直ちに司令官の指揮下に入ることを意味しない――という根拠の一つとして、この訳を採用する方針とみられる。

 首相はまた、同日の参院特別委で「自衛隊は現在のイラク特措法の範囲内で、非戦闘地域で人道復興支援活動を継続していく。武力行使を目的とする活動に協力しないことは関係国にはっきり伝えてある」と述べた。政府関係者は同日、「日本が独自の指揮権を持つと公表することは、米英両政府の了解を得ている」と明らかにした。

 イラクでは現在、サマワで陸上自衛隊が行っている給水・医療支援などの人道復興支援だけでなく、航空自衛隊による米兵の輸送などの「安全確保支援活動」も行われている。首相は14日夜、多国籍軍でも空自による米兵輸送を継続するのかとの記者団の質問に「今までと同じ。日本の主体的な判断で行うということです」と答えた。防衛庁幹部は「これまでも武器・弾薬は運ばないという日本の主体性は確保されている。米兵の輸送も、運ぶ先が非戦闘地域なら武力行使とは一体化しない」と説明する。

 ただ、多国籍軍司令官の命令と日本の判断が食い違ったような場合に、日本の指揮権がどう優先するのか、などの説明はほとんどされていない。細田官房長官は同日の記者会見で「一両日中ぐらいにこうした点を説明できる統一見解をつくる予定だ」と表明した。

特定船舶入港禁止特措法が成立 政府、発動には慎重

 万景峰(マンギョンボン)号など日本に寄港する北朝鮮船舶の入港を禁止することが可能になる特定船舶入港禁止特措法が14日の参院本会議で、自民、民主、公明などの賛成多数で可決、成立した。2月に成立した改正外為法に続き、北朝鮮への経済制裁法の第2弾。共産、社民両党は「小泉首相の再訪朝などの流れに水を差す」などと反対した。政府は発動には慎重だが、安否不明の拉致被害者10人を巡る再調査などの進展次第では発動を求める世論が高まる可能性もある。

 特措法によると、「我が国の平和と安全の維持のために特に必要がある」と判断した場合、閣議決定で入港禁止の理由や期間を定めて、特定の外国船・特定の外国に寄港した船あるいは特定の船舶の入港を禁止できる。閣議決定後20日以内に国会の承認が必要で、承認が得られなかった場合は入港禁止措置を終了させなければならない。

 小泉首相は5月の日朝首脳会談で「北朝鮮が日朝平壌宣言を順守する限り経済制裁を発動する考えはない」と明言した。

自衛隊の多国籍軍参加、18日にも閣議決定

 小泉首相は14日午後、首相官邸での政府与党連絡会議で、主権移譲後のイラクで編成される多国籍軍に自衛隊を参加させることについて、「新しい国連決議が全会一致で採択された。多国籍軍の中で日本にふさわしい活動をしたい」と改めて表明した。与党はこれを受けて党内手続きを開始。政府は18日にも、派遣の根拠としてイラク復興支援特措法の施行令に新たな国連安保理決議1546を加える閣議決定を行い、自衛隊参加に向けた手続きを整える。

 連絡会議では公明党の神崎代表が「人道復興支援は現地も評価しているので、(活動継続は)賛成だ」としたうえで、自衛隊の多国籍軍参加に当たっては、(1)自衛隊が多国籍軍の指揮下に入らないことの担保が必要(2)活動は非戦闘地域に限定(3)活動内容はイラク復興支援特措法の人道復興支援活動に限る(4)他国の武力行使とは一体化しない――の4点が必要だと指摘し、「国民に説明してほしい」と求めた。これに対し首相は、「しっかり確認する」と答えた。

 これに関連して秋山収内閣法制局長官は14日午前の参院イラク復興支援・有事法制特別委員会で、「多国籍軍に加わる国ごとに任務が切り分けられていて、武力の行使が伴わない業務に限定して従事することができる場合には、我が国が多国籍軍の一員となることが考えられないわけではない」との見解を示した。平野達男氏(民主)の質問に答えた。

 秋山氏はまた、「『参加』はできないが指揮下に入らない形で関与するのは、広い意味での『協力』に入る」と述べた。ただし、「他国の武力行使と一体化しないことを担保する仕組みがなくてはならない」と語った。

 細田官房長官はこの後の記者会見で、「そのようなことを担保するのが我が国の方針だ。(多国籍軍の司令官から)『そっちへ行け』『ほかのこういう業務もしてくれ』ということは、憲法をはじめ、法令上の制約があるから絶対にできない。こういう方針を変えるものではない」と語った。