方針転換を迫られる地元企業、その厳しい背景
朝、監督が部品を取りにきた。得意先の研究所などでは予算が大幅に削られ、新品の精密機器を入れたくてもかなわないのだと云う。半額にしてもらえれば考えてもいいと云われているが、今時そんなことしたら会社が潰れてしまうと力なく笑う。材料費だけでやってくれと云われて断った、というブラックユーモアとしか云いようのない話も同業社長から聞き及んでいる。監督が云うには、いま社長は部品製造のための全自動工作機導入を考えているとのことだった。機械が高価なため補助金をあてにしているようだ。かつて同業会社がそれで年商6億の大成功をおさめたことがあるのだと云う。その過程では社員の一億円持ち逃げといったアクシデントもあったが、それらも銀行のフォーローで切り抜け、当初二人の従業員も今では60人を超えるまでに成長したとか・・・けっこうなことである。しかし、今では事情が違うのではないか?と私は口を挟んだ。この不況下で地方の財政も逼迫し、中小企業を支援してきた外郭団体への大幅予算削減も始まっている。最悪の場合は廃止されてしまう可能性もある。部品製造といってもオーダーメイドの自由度が効く特性が必要だし、また、その特性をどう支援する側に理解してもらえるかどうか、厳しいところだ。
数日前、地元同業の面々に新年挨拶がてら年初めの仕事状況を訊いてみた。予想通り、まったく仕事が入らない、という悲鳴が返ってきた。あくどい仕事で成り上がり、カネを握った者が勝ちだとする手合いも増えている。一部景気のいい会社があるが、営業主体のずさんな仕事で客を泣かせているらしい。類は友を呼ぶで、その会社には私の知ったゴロツキばかりが集っている。ここの社長はかつて組合の理事長をしていた。公共の仕事を一手に取り仕切っては、その利益をがっぽり分捕るという悪質さであった。つまり組合を悪用したことになる。今は亡き初代理事長の父が聞けば噴飯ものの話である。私の父は、組合員の生活を守ることに専念してきた。火災後、父は理事長をやめたが、それがいつしか組合は幹部の利権あさりの巣窟と変貌していったのだ。父は死ぬまでそのことを嘆いていた。
水曜日頃に仕事を持って来るよ、と云って監督は部品を大事そうに抱えて外に出ようとした。おりしも外は冷たい雨、私は濡れないように即座に部品にタオルを被せた。小さくても部品は私が手がけた大事な製品だ。まるで慈しみ育んだ我が子のように扱うことで仕事に誇りを持っていたい。
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