アメリカ協調路線の始動
ブッシュ大統領の御意見番ジェームズ・ベーカー元国務長官が動き出している。アラブ、欧州諸国を歴訪するベーカーの役割は、ずばりアメリカが強硬路線から国際協調路線への変更を意思表示するためであろう。強硬路線に走ってきたネオコンが、ベーカーに圧力をかけているとかの報道もなされている。しかし、これはすべてシナリオ通りの猿芝居だ。奴らがいかに対立しているように見せかけても、相関関係を辿れば同じ穴のムジナに過ぎないことが分かる。ブッシュが逮捕したばかりのフセインの身柄をイラクに渡し、その裁判をもイラク人に委ねるというのも、ブッシュがベーカーの協調路線を受け入れたことへの証しだ。それによってアメリカに不利な証言がフセインの口から出ようとも、それらを凌駕する何がしかの国益を得ようとする目論見が見え隠れする。いまに思えば、’91湾岸戦争においてフセインを追い詰めながら息の根を止めなかったブッシュ父親の意図が、ここにきてようやく分かろうというものである。二人の大統領を輩出したブッシュ家もさることながら、その御意見番ベーカーもなかなかのものだ。表向きのカードをひっくり返してみれば、実は大統領が配下閣僚の下で働く部下だったりする。現ブッシュ大統領の祖父プレスコットは「ブラウン兄弟社」で働く投機屋だった。この会社の所有者はロヴェット家であり、その孫ジェームズ・ベーカー3世がブッシュの部下でいられるわけがないのだ。アメリカを代表するかのように見える大統領は、実際には操り人形でしかない。
ベーカーの歴訪を皮切りに、これからアメリカは劇的な国際協調路線を展開していくことだろう。それに呼応したマスコミが「アメリカは変わった」との煽動記事を流し、イスラエルさえパレスチナから撤退するかも知れない。世界中の紛争国から続々と引き揚げていく米軍・・・その光景に人々は平和が戻ったと錯覚する。それは日本でも起こるだろう。沖縄から引き揚げていく米兵に喜ぶ人々、極めつけは米軍基地の解体すら用意され狂喜するようになるかも知れない。そして奴らの本音はこうだ「火種が消えない限り、導火線は大丈夫だ」・・・つまり、来たる大戦争のための火薬は設定してある、ということである。その火種たる導火線に点火するのは誰でもいいのだ。むしろ、いずれ占領する大義のためにも、アメリカは介在しないほうが良いと考えるだろう。
我々は’91湾岸戦争前のベーカーの役割を思い出す必要がある。1991年1月9日、最後の希望を託したベーカーとイラク外相アジズの会談は、当初の計画通り決裂した。ベーカーは最初からそれを承知していたはずだ。12年後の今、ベーカーはまたしても平和外交の特使として登場している。希望を託すたびに血が流れてきた偽善の平和大使、天使と悪魔の見間違いは致命的だ。
大使とは、自分の国の利益のために、外国へ嘘をつきに派遣される誠実な人間である。
(ヘンリー・ウォトン)
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