猫たちとの憩いのひと時、ふいの来客を猫たちが総立ちになって知らせる。「あらら・・・猫ちゃんたち、いっぱいいますね」金網越しに聴こえる人の声「ガスの集金に伺ったんですが、先月分から滞納してますので、宜しくおねがいします」「は〜い、ご苦労さま」
あのね、本当のところカネないのよ。ないものは払えない。ガス止めてくれていいからさ、滞納分チャラにしてくんないかな?だめ?ダメなんだろうなぁ・・・あんたも上司に叱られるんだろうね。何としてでも取り立てろって、それでないと給料からさっぴくぞ、なんて脅かされて困るんだろうな。やれるもんならやってみろ!なんて上司に楯突くわけいかないものね。そのためにリストラされたらたまんないね。でもね、本当にカネないのよ。仕事が少ないから、収入も少ないわけ。分かってほしい、この苦境・・・ほら私なんかこんなに痩せちゃって、え?普通だって?あなた、以前の私見てないからそんなこと云えるんだよ。前はそれこそ丸々太っててね、デブそのものだったんだ。それがこの不況の直撃受けて会社が傾き、ご飯も喉を通らなくなり、ごらんように痩せ細ったというわけ。でも、ものは考えようで、スリムになって良かったと思い込むようにしている。不況よ、ありがとう。
こうなりゃマゾッホに成り切って、もっといぢめて!なんて歓喜しちゃおうか。うっとりした顔してたら、集金人も気味悪くなって逃げ出すんじゃないか。涎なんか流してたら救急車呼ばれたりするかも。
分かってる、即効の処方箋はカネだってこと・・・その処方箋がないから、金欠病も治らない。瀕死の重病だ。必死で空をつかむ手に札束つかませてくれたら、あ〜ら不思議、突然完治したよ、奇跡だ!なんて類いの病気なんだ。
猫が台所で暴れている。猫になりたい。生きることだけに生きてりゃいいんだもの。今の人間社会で生きるってことは、カネのために生きるってことになるね。カネが無ければ生きられない、という意味において、私はもう死んだも同然なんです。どうか私が死んだと思って、集金は諦めてください。でも香典はちゃんと持ってきてね。
「金々節」添田唖蝉坊・作、小沢昭一・歌
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