03/06/21 (土)
 16億のカネを動かしていた人物と酒を酌み交わした。大言壮語と思う向きにはそう思え。ウラ社会の闇は謎めいて、深い。おやっさん、と私が呼ぶところの老人のこと、聞き伝えに少しずつ書いていこうか。気まぐれだから、気分が乗らないと書かないが・・・
勝手気ままの根無し草、流れ流れて何処へゆく。
 昨日は某社長と事務所で話していた。どんな小さな仕事でもいいから回してほしいと嘆願、急に云われても困るなぁ、こんな不景気だからね・・・そこを何とかお願いしますよ・・・無理なのは分かっていながら、無理を云う、無理を頼む。かつてはこの社長の無理も聞いてきた。それを口に出さずに、いま私は頭を下げて嘆願している。銀行が融資してくれない、と、途方にくれてやってくる社長。うちも大変だったが、何とか工面したものだ。ところが支払い期日を過ぎても社長は来ない。真冬に犬に吼えられながら社長宅の玄関先で震えていたこともある。何度そんなことを繰り返してきたことか。そんなことを忘れたかのように、いま社長は笑いながら私と応対している。底冷えするような人間社会、その心・・・
 どうすればいいのか?これから先、どうして生きていけばいいのか?甘いんだよ、そう云われた言葉が心に突き刺さったまま、照り返しで目眩を起こしそうな街並みを、ただよう、心、ふわふわと・・・
 過去を振り返るな。現実を直視して、これからのことだけ考えろ。オレは16億のカネを動かし、6億の借金を抱えて困っている弟を助けてきた人間だ。アンタのいまの苦境なんか微々たるもんだ。立ち寄った馴染みの食堂、その老人店主の容赦ない苦言に耳を、心を傾ける。不思議でミステリアスなおやっさんのこと、映画になりそうな体験が老人の口から語られている。数ヶ月前、地元繁華街スナックでママが殺されるという事件が起きた。そして一週間ほど前に犯人が逮捕されたが、事件が起きた直後に刑事がおやっさんの店を訪れたのだと云う。昔、殺されたママを使っていたことがあったからだ。まったく警察ってやつはしつこくて嫌だ、淡々と語るおやっさんの横顔にミステリアスな霞みがかかる瞬間だ。人間模様ウラのウラまで知っているかのような口ぶりに、内心興奮しながら聴いている私がいる。どういうわけか昔から知っていたような奇妙な感覚に包まれながら・・・おやっさん体大事にしろよ。また来いや、今度は彼女の一人ぐらい連れて来い。まいったなぁ、心がいたく傷付いたじゃねえか。心が傷付くって顔してるか、バカ。笑いながら店を出る。オレは昔、かなり暴れたもんだ。おやっさんの言葉を心に残したまま、私は繁華街をさ迷う。突き刺さっていたわだかまりを一本一本抜きながら、男の美学というやつを考えていた。
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