03/06/09 (月)
 次の仕事が途絶えている。やはり不安になる。というわけで元請けに連絡をとったら「材料が入らないので遅れている。今月の中頃には入荷できるのではないか」ということだった。これはキツイ。入荷しても短期間に数台まとめてやるようになるだろうし、景気の冷え込みが原因だとすれば深刻なことになる。ほかにアルバイトしようにも「自分の仕事が入ったから休ませてほしい」では済まされない。こんな悩みはまだ良いほうだ。仕事があるだけマシだと、同業者は口をそろえる。日本のこうした不況に外国のジャーナリストは「日本では不況が原因と思われる自殺者が、交通事故での死者の三倍に達している」と報じていた。世界紛争国の犠牲者より自ら命を絶ってしまう日本人の方が多い、という外国マスコミの認識は的を得ている。それを当の日本人はどれだけ認識しているのだろうか?互いに頭を小突いてはバカ笑いしているテレビのバラエティショーを観ながら、しばし絶望的になる。仕事があるだけマシだ、とも限らない。むしろ仕事が全くないよりマシだと、安価な仕事に甘んじているのが現状だ。そこから材料費や人件費を引いて幾ら残るか?数字を直視するのが恐ろしくなる。このまえ「工事費の半値でやってくれ」と客に云われて断ったという同業者と話をした。10万円の仕事なら、少なくとも2〜3万の材料費がかかる。そこから諸経費及び人件費を差し引けば赤字は確実だ。従業員を抱えているところは「職人を休ませるよりはマシだ」と赤字覚悟の仕事を請け負う。これは「職人を休ませるわけにはいかない」という経営者の責任感の現われでもあり、苦肉の策でもあろう。よくよく考えてみれば、これは苦肉の策にもならない。

 人、自ら害せず、害を受くれば必ず真なり。真を仮(いつわり)とし仮を真とせば、間をもって行うことを得ん。童蒙の吉とは、順にして巽なればなり。

 つまり苦肉の策とは、相手の攻撃にあって敗北を演出しながら態勢を立て直すという戦略のことだというのだ。価格を高く設定しておいて「お客さんには負けた。損を覚悟で勉強しちゃうよ」と、損したフリをして僅かな値引きで客に満足感を与えるようなものだ。最初から赤字になると分かって引き受ける仕事には適用できない。かくして最後には「三十六計、逃げるにしかず」しかない。

 全師、敵を避け、左(しりぞ)き次(やど)るも咎なし、いまだ常を失わざるなり。

 逃げるが上策「三十六計、走為上」である。しかし、それも逃げて態勢を立て直す余裕があったればこそ、借金に追われて逃げるのであれば適用外だ。数年前倒産した隣の会社の社長は、数億の負債を出して行方を眩ましている。その際には多額のカネを持ち出したという。こうした経営者の食い逃げは犯罪であり、逃げるが上策・走為上とはならないことは云うまでもない。連鎖倒産を承知で逃げ出す経営者によって、何とか貯蓄を切り崩して踏みこたえている下請けが殆どだ。貸し渋る銀行が、こうした下請け会社に融資するはずもない。きゃつらは資産家だけにターゲットを絞り、不況のどしゃぶりに濡れるがままの下請けには傘を貸そうともしない。有り余るほど傘を持っている一握りの勝ち組だけには、もっと傘を借りてほしいと頭を下げる。雨漏りのする傘さえいつまで持つか分からない中で、限界を実感している下請けの、これが実態だ。万策尽きるそのまえに雨宿りを探し、探しあぐねてさ迷う人々の、その苦衷を無視できる為政者を・・・ニッポン国民が本当に望んだ結果だとしたら、私はこの国を捨てて異邦人になりたいものだ。
 
「じねん」TOP