【インドネシア】大統領、戒厳令に支持要請
メガワティ大統領は20日、ナングル・アチェ・ダルサラーム州への戒厳令に相当する軍事非常事態宣言の発令について、全国民に理解と支持を要請した。大統領が同宣言をめぐり公式に発言したのは初めて。一方、現地では同日時点で185件の学校が放火されるなど治安がさらに悪化しており、国際社会からは事態の推移を懸念する声も出始めた。大統領はジャカルタで開催された国民覚せいの日式典で、軍事非常事態宣言について「民族統一と領土保全を維持するためやむを得ない決定だった」と説明。同宣言が人権侵害に当たるとの批判が一部で出ていることに関しては、憲法28条Jで「すべての国民は社会、国民、国家を形成する秩序の中で他人の基本的人権を尊重しなければならない」とされている点を挙げ、秩序の外で人権や民主主義を主張するのは誤りだと強調。全国民の理解と支持を強く求めた。
独立派組織「アチェ自由運動」(GAM)に対しては、「外国人(スウェーデンに亡命したハッサン・ティロ氏)を指導者とする組織の願望をかなえるために国家創設者(スカルノ初代大統領)の信念を無視する訳にはいかない」と述べ、改めて領土保全の原則を固持する意向を示している。大統領は19日付で発布した『2003年第28号大統領令』で、軍事非常事態宣言をアチェ全域に発布。現行の非常事態法によると、同宣言では現地指揮官(エンダン陸軍イスカンダルムダ軍管区司令官)に対し、住民の武器所持・通信・物流・交通・報道・出入域を制限する権限や、公共施設・食堂・屋台・工場を閉鎖する権限、手紙の開封権限、人民の逮捕・20日間の拘置権限などが与えられている。
■治安さらに悪化
アチェでは治安回復作戦が開始された19日以降、州都バンダアチェなど都市部を除く各地で小中学校やイスラム学校を狙った放火事件が相次ぎ、同州政府によると20日午後6時現在ですでに校舎185件が焼失した。ビルン県(78件)、ピディ県(74件)、アチェブサール県(28件)で特に被害が大きく、数万人の子どもが通学できない状況となった。同州の学校数は約3,000校。エンドリアルトノ国軍司令官は、学校への連続放火がいずれもGAMの犯行との見方を示し、治安部隊に犯人を早急に逮捕するよう命令。GAM兵士を発見した際は、投降した場合を除きその場で殺害するよう指示した。ユドヨノ政治・治安担当調整相によると、政府は投降したGAM兵士に対しては恩赦も検討するという。治安回復作戦の詳細は明らかにされていないが、地元報道によると国軍とGAMの戦闘では19日までにGAM側5人が死亡したほか、20日には国軍が北アチェ県のGAM拠点を襲撃し、12人を拘束、1人を殺害。また20日にはビルン県議会議員がGAMに銃撃され死亡したほか、同県議会副議長と北アチェ県議会議員の自宅、アチェブサール県の発電所など各地の要人宅・重要施設への放火も相次いだ。ただし同日時点の避難者数は2,700人と一時の6,000人から減少した。国軍は現時点で約3万人、国家警察は約1万3,000人をアチェに投入しており、今後は国軍・警察を計5万人まで増員して各地のGAM拠点を攻撃する方針。国軍の最新データ(表参照)によるとGAMの戦力は5,325人と以前より増加しており、主要拠点は東アチェ、ビルン、西アチェ、南アチェ、ピディの各県1カ所ずつ、北アチェ県2カ所の計7カ所。北アチェ県には米系エクソンモービルが操業するアルンガス田などの重要施設がある。
■国際社会が懸念
アチェでの治安回復作戦開始に関し、国際社会からは事態の推移を懸念する声が多く上がり始めている。地元ニュースサイト『デティックコム』などの報道によると、国連のアナン事務総長は19日(現地時間)、ニューヨークで「軍事非常事態宣言の発令に伴う新たな内戦を深く懸念している」との声明を発表。インドネシアの領土保全への支持を表明すると共に、政府とGAMに再び対話での解決を試みるよう要請した。米国務省のバウチャー報道官も同日、「アチェでの武力行使は問題を解決しない」と発言。豪州のダウナー外相も「多くの死者が出る可能性を懸念して2003年5月21日」と述べ、共に対話による解決が最善との考えを強調した。日本の川口外相も19日、今月17〜18日に東京で行われた最終協議の失敗に遺憾の意を表明したほか、日本は今後も平和的解決に向けてあらゆる側面的支援を行う用意があると呼び掛けている。このほか20日付英紙ガーディアンによると、英国外務省はインドネシアに輸出した同国製のホーク戦闘機が治安回復作戦で使用された場合、何らかの措置を取ると警告しているもよう。地元報道では国軍がアチェに派遣した軍用機6機のうち4機が米ブロンコ戦闘機、2機がホーク戦闘機だが、爆撃はいずれもブロンコ機が行っている。
|