午後三時半頃まで仕事を仕上げる。完璧には程遠いが、一応満足できる仕上がりになった、と自分では思っている。パテ付けと磨きの段階で、ほぼ仕上がりがイメージ出来るようにもなった。トラブルが生じても、急いで修復するとかえって悪化する場合が多い。乾燥するまで30分以上の間隔が必要だ。パテ付けと磨きの間は一昼夜空けないと完全乾燥せず、磨く際に研磨粒の目がつまる。以前はこれを知らないで何度も失敗を繰り返していたものだ。
単調な作業の過程では、ときに気が焦り、細かい見落としが出やすくなる。角度を変え、眼を凝らして傷を点検し、仕上げ前の段階では肌を撫でるように、表面を指先で触ってみる。人間の指先は最も敏感なセンサーだ。どんな些細な傷も分かる。そうして、三回の吹き付けを経て完成したベースが、今も工場で出荷を待っている。ゴツゴツした凸凹だらけの鉄の鋳物を、ピカピカの製品に変化させる喜びは、何ものにも替えられぬものだ。こんな手間のかかる、単価的にも割の合わない仕事は何処もやりたがらない。へそ曲がりの私は、だからこそやる、のである。出来るわけがない、といった嘲笑の中で、やってみせることの誇りぐらいは持っていたい。まるで神さまに上納する供物のように、丹念に磨き上げているつもりだ。誰に評価されようがされまいが関係はない。自分の内なる良心とかいうところの、神聖な部分で納得すればそれでいいではないか。最近、やっとそう思えるようになった。
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