午後4時現在、研磨終了。修正パテを付けて、明日は水研ぎに入る予定。明日までに完成させなければ採算が取れない。今日予約しておいた材料入らず、苦情の電話を入れる。またか、である。至急の予約が、仕事が終わった後に入るという、噴飯ものの初歩的ミスに呆れる。ミスと云うより怠惰だ。これで商売が成り立っているほうがおかしい。何度もこういうことを繰り返しながら、改善する気もないようだ。今日の分、全てキャンセルした。電話口で「申しわけありません」という事務員の声、少し強く窘めたが、もういいだろう。東京からの直送を思案している。多少送料で高くなるだろうが、イライラするよりマシだ。土日は休み、予約しても遅れて配達するようではこっちの商売が成り立たぬ。手間がかかる割には単価が安い。それを何とか採算が取れるようにもっていくには、短時間に効率的に仕事をするしかない。そのための材料の予約なのだ。製品を納めるたびに自分の未熟を感じながら、今度こそ完成度の高い仕事をしようとしてきた。こうした苦労も材料の遅れで水の泡となりかねない。そのへん老舗の店は分からない。申し訳ないでは済まされない、こっちの事情は生活の糧が失われるということなんだ。もっとも、こんなことは最初から想定していたので、何とか切り抜けたわけだが・・・どうなんだろう?口煩いという評判が立っているらしい、私のこうした考えは自問するに値するのだろうか?
職人の誇りは何処へ行った。何処へ消えた?自問するのはそのことばかり、満足のいく仕事のあとに飲む一杯の酒の旨さよ。あとは何にも要らない。先代社長とはちと違うが、仕事に対する基本姿勢は失っていないつもりだ。オヤジよ、覚えているかい?某大手の仕事に20代のオレに出来っこないと云われながら、やり遂げたあの現場のことを・・・監督と口論して「足場全部つくり直せ」と云ったときの、監督の驚きようは即座にアンタに跳ね返ったんだよな。高さ25メートルもある現場に一本足場で仕事が出来るか?!って、オレは監督に喰ってかかり、監督は「これだけの足場、組み替えたら幾らかかると思っているんだ?!」と逆上したっけ。「それじゃ、この足場から人が落ちたら誰が責任取るんだ」と言い張る私に、監督は「若いくせに生意気だ」と怒ったんだ。社長だったオヤジが呼び出され「おまえは何ということを云うんだ?」とオレを叱ったね。オレは現場を外され、帰ったけど、あとで「おまえの云うとおりだった。監督は足場組み直すと云っていた」とアンタに聞かされて、オレは嬉しかった。ほかの職人がやらないというその現場に、戻ったとき、あまりの大きさに怪物のように思えたもんだ。でも、オレはやったよ。オヤジ、覚えているかい?
アンタが死んだ後、元請けの社長がその大手会社を内部告発して、そして孤独のうちに自殺したよ。みんな知らん振りしてた。オレたちは何をしてきたんだろう?大手の云うままただ追従するだけで良かったのかどうか?課長から部長まで、業者から当然のように賄賂を受け取って平然としていたあの時代に、オレたちの元請け社長は毅然として立ち向かって行ったんだ。あれ以来、オレはずっとそのことを考えつづけてきた。最後に一言、オレたち団塊の世代の不甲斐なさを、許してほしい。それでは済まないほどに、多大な負債を日本の担い手に残してしまった。その責任の一端を担うためにも、私はこの日本を腐らせてきたタブーに挑戦したい。しがない零細の戯言だと笑うがいい。今日のオレはどうかしてしまったのさ。
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