FBIのBNLアトランタ支店の強制捜査に呼応して、アメリカ国務省は農務省の貸付リストから急遽BNLを削除する。この覚書にはベイカー国務長官のイニシャルが入っており、全ては国務長官の承認のうえで事を進めたことになる。さらにブッシュ大統領はイラクとの貿易を維持するための国家安全保障命令26号にサインした。1989年10月時点のことである。つまり、レーガン政権下でのイラク支持の継続を再開することを公にしたということだ。二転三転の目まぐるしい方向転換である。これは昨日のニュース「言うこところころ変わる、イラク高官がブッシュ演説批判」を彷彿とさせてくれる。ブッシュ親子版「蛙の子は蛙」というところか。こうしてイラクを友好国と宣言した親ブッシュは、さらに農務省にイラクへの10億ドルもの追加資金供与を命令しているのだ。イラクの武装を支援しながら、一方で親ブッシュは湾岸戦争の準備を着々と進めていた。翌1990年になると親ブッシュはイラク訪問を間近に控えていた米大使エイプリル・グラスピーに対し、「アラブ国境紛争には一切介入しない」ことをフセイン大統領に伝えるよう頼んでいる。これをイラクのフセイン大統領は当然のことながら「イラクがクウェートに派兵してもアメリカは黙認する」と受け取った。むしろブッシュはイラクがクウェートに侵攻しやすいように手助けをし、かつそのようにイラクを誘導してきた感がする。イラクはルマニア油田を取り戻すことが長年の悲願であった。かつて400年間イラク領とされてきた土地のルマニア油田が、1899年を境にイギリスに分譲され、過疎地クウェートがイギリスの保護領となって現在に至っている。そうしたイラクの悲願を承知の上で、アメリカ政府はイラクの武装を支援してきた。それが罠であったことをイラクは来たる湾岸戦争をもって思い知ることになる。
ジョバンニ・アニェリの死亡記事から湾岸戦争まで書き進めてきたが、一応ここで一区切りしようと思う。自分で随時調べながら書いているので、初めから分かっていることを書くことは少ない。その都度新たな発見に好奇心を募らせている。主に書籍からの抜粋なので、すでに同じ本を読んでいる者は心当たりがあるだろう。後でまとめる際には同時進行している世界の歴史などを加味していきたいと思っている。ときにボンヤリと考え込む時があるが、こういう時間帯を大事にしている。考えだけは他人に委ねたくないと思う。軍国主義は権力に自分の考えを委ねてしまうことから始動する。どんなに疲れても絶望しても、自分の心だけはしっかり掴んでおくこと・・・掴みどころのない心ならばこそ、余計そう思う。まさに「心こそ心惑わす心なれ、心に心、心ゆるすな」である。
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