26日の日誌ではバンカ・ナツィエナーレ・デル・ラヴォロ(国立労働銀行)が16億ドルの資金をフセイン大統領に流していたことを書いたが、イラクはその資金で武器を購入した。この国立労働銀行は(以下BNLと略す)イラクに地雷も売り込んでいる。昨日の日誌で書いたところのアニェリ家のホワイトヘッド・モトファイズ社が地雷をつくる会社であることを想起されたい。イラクがBNLから武器購入のための資金を受けた翌年の1982年、どういうわけか当時のアメリカ大統領レーガンはイラクをテロリズム支援国リストから外していた。アメリカ政府もまた一蓮托生であったことを推測させてくれるような出来事である。そして翌1983年、アメリカ農務省は総額3億6500万ドルをイラクに融資するのだ。その資金は農産物購入のためにではなく、後に軍需品購入に使われたことが明らかになる。そして翌々年の1985年、イラクはジョージア州のBNL支店において、アメリカ農務省からの融資の処理を依頼している。翌1986年1月、首都ワシントンにおいてCIAとNSA(国家安全保障局)との高レベル会議が開かれ、イラクに関する諜報データをテヘラン政府に与えることが了承されている。そして翌1987年、レーガン大統領がイラク支持を公に表明すると、BNLアトランタ支店はイラクに対して21億ドルの極秘融資を決定するのだ。
こうしたアメリカ政府のイラクへの支援体制も二年後の1989年になると一転する。ジェームズ・ベーカー国務長官が「イラクは生物化学兵器及び新型ミサイルの開発に着手している」と警告すると、エネルギー相は「イラクは核爆弾製造計画を推し進めている」と呼応し始める。八月、FBIはBNLアトランタ支店を強制捜査、これは火種が農務省に至らないための先手だと噂された。(つづく)
これらの背景を踏まえながら、日増しに対決姿勢を強めつつある現在のイラク対アメリカの動向を考えてみるのもいいだろう。連日流れる緊迫したイラク情勢において、虎視眈々と獲物を狙う闇の存在があることを実感してほしい。
イラクとの対決姿勢、鮮明に 米大統領一般教書演説
ブッシュ米大統領は28日夜、上下両院合同会議で一般教書演説を行った。大量破壊兵器の武装解除をめぐって最終段階に入っているイラク問題では、「国連と世界の世論に徹底的な侮辱を示した」と糾弾。フセイン政権が応じない場合には「(国家の)連合を率いて武装解除を行う」とし、武力行使も辞さない姿勢を示した。また、イラクの違法行為を裏付ける情報を2月5日に国連に提出することも表明した。開戦宣言には至らなかったが、世界が注目する中、これまでにない激しい言葉でイラクとの対決姿勢を鮮明にした。米大統領の一般教書演説は、今後1年間の施政方針を明らかにするもので、外交問題のほか、国内政策では、減税策による経済成長、雇用の創出をうたった。
イラクについては、「今日最も深刻な危険は、核、化学、生物兵器を求め所有する無法者政権である。同盟関係にあるテロ国家・集団に武器を売り渡し、それがためらいなく使われる可能性がある」として、01年9月の同時多発テロに始まる対テロ戦争の連続として位置付けた。
進展していない大量破壊兵器の武装解除については、「フセインはすべての大量破壊兵器の解除に同意しておきながら、過去12年間にわたって、計画的に合意に違反してきた」と非難。「イラクの独裁者は武装解除していない。それどころか、(我々を)欺いているのだ」と強い言葉で断罪した。
国連安保理に2月5日に提示する情報は、パウエル国務長官が発表する。米政府によると、イラクが大量破壊兵器を隠して、国連の査察を妨害していることを示す衛星写真のほか、移動式の生物兵器製造装置の存在、テロ組織アルカイダの訓練にイラク政府が関与していることなどを示す情報という。演説で大統領はイラク国民に対してメッセージがあると呼びかけ、「イラクを囲んでいる外国ではなく、イラクを治めている者が、あなたたちの敵なのだ。彼(フセイン)が権力から除かれる時が、あなたたちの解放の日なのだ」と語った。また、大統領は「我々は平和を求めるが、戦争を強いられれば、米軍は全力で戦い、勝利するであろう」とも述べた。
北朝鮮については、韓国、日本、中国、ロシアとともに平和的解決を模索していることを強調。「核の野望を断念さえすれば、世界で尊敬を獲得し、国民にとっての復興を達成できる」と核開発の中止を求めた。
景気対策では、「経済が成長すれば雇用が生まれる。消費や投資に使うお金があるときに経済は成長する。最善の方法はまず税負担を軽くすることだ」として、所得税減税の前倒しや株式の配当課税の撤廃を訴えた。
米国民の間では、ブッシュ政権の経済政策に対する不満がこのところ高まっており、一昨年のテロ直後には90%に届いた大統領支持率も、年が明けてからは軒並み5割台で、テロ前の水準に戻っている。このため、外交を前面に押し出した昨年の一般教書演説と異なり、今年は経済を中心に国内問題に半分の分量を割き、内容の順番も国内政策を先に持っていった。
これがブッシュの武力行使を正当化する一般教書演説の骨子だが、査察の調査段階を踏まえた証拠なくしての武力行使はもとより、仮にそれらの証拠が出てきたにしても戦争は極力回避すべきだ。これにはスパイの容疑をかけられている元査察団のスコット・リッター氏の次のような証言が代弁してくれる。
私に対してのイスラエルのスパイだったという疑い、旧ソ連のスパイだったという疑い、そしてイラク政府のエージェントだという疑い、どれも裏付けなどはなく、国家予算と時間の無駄遣いだ。『裏切り者』というメールがきたり『パスポートをイラク国籍に書き換えろ』とか、留守番のメッセージには『殺してやる、家族を傷つけるぞ』などの脅迫が続いてきた。私には私ならではの話ができる立場にある。アメリカ国民として別の選択肢がないんだ。父親として夫として、地域社会の一員として・・・『祖国防衛に必要のない戦争はやってはいけない』と伝える責任がある。だから私は訴えつづける。戦争をやりたがっている連中よりも、もっと一生懸命に平和を訴えつづける。
イラクへの査察について、アメリカの安全保障が脅かされるほどの証拠は誰も示していない。イラク攻撃を正当化できるものがない以上、私はこの戦争に反対だ。数週間以内に15万人の米軍が湾岸に展開する。その数が20万人になれば戦争になる。そうなれば誰も止めることは出来ない。恥ずかしい話だ。引き返せないから戦争をするなんて・・・イラクが化学兵器を持っているというなら、大統領はその証拠を見せるべきだ。今イラクには査察官がいて、イラク政府はそれに協力している。それなのに、なぜ戦争の話をしているのだ?テレビのニュースではプロレスのように伝えている。『イラクと戦争だ!サダムとの対決』云々・・・まるで娯楽だ。考えてみてください。イラクに住む人々も我々と同じように、幸せで自由な人生を願っていることを・・・もし我々がイラクに攻め込めば、確実に彼らを叩きのめします。数万人単位ではなく、数十万単位でだ。どの戦争でも同じだが、犠牲になるのは罪のない人々だ。どうかイラクに住む人々の顔を忘れないでほしい。
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