また仕事が途絶えた。年々仕事が少なくなっている、と呟いた監督の言葉が不安となって脳裏をかすめる。かろうじて食い繋いできた今、それが出来なくなった時、その時期が今であり明日なのだと・・・引き続く不安との葛藤。猫族が唸り声をあげて餌を貪る。生きものが生きていくということ、生物本能のままに・・・ただ生きているだけでいい猫社会にあって、人間社会の何と不自由なことよ。なんのかんの云っても飢えることはない、食べものは豊富にある。贅沢さえしなければ生きていけるのだと・・・そうかな?食べものを買うカネもないのに、どうして食べて、生きていかれるのか。食べていけるだけの仕事をください。私にはこれまで培ってきた技術も才能もあります。カネにならない労苦は無駄だと、知人に言われた言葉が私の心を苛む。
こっちにおいで、手招きしてくれる知人ふたり・・・ありがたい、その厚意に甘えてみたい。全てを投げ捨てて、私を拾ってくれるという友に拾われてみたい。野良猫のように・・・人間社会を徘徊するのに疲れた。私は野良猫を拾った。メスのその野良猫が次々と子猫を産み、八匹になった。叔父は言った「野良猫なんて捨ててしまえ」・・・野良猫を捨てる以前に私が野良猫なのだ。だが心は捨てられない。心を捨てて生きていかれるほど私は強くなれない。ただ欲望を切り崩して質素な生活を維持していきたいだけだ。こっちにおいで、手招きする私に子猫たちが寄ってくる。今日はたっぷり餌をあげよう。おまえたちを捨てられるもんか・・・ただ生きていてくれるだけでいい・・・母にも生きていてほしかった。その命日が迫っている。懐かしいおかあさん・・・私を拾ってくれませんか?どうやら私は迷子になってしまったようです。
何度落ち込んだら気が済むのか・・・何度つまずいたら気が付くのか・・・頭から布団をかぶり、耳を塞いで心を閉ざそうとする。自分の全存在の否定・・・そうして心を閉ざそうとしても、現実は消えてくれない。ありのままの自分を受け入れる、じねん流・・・憎しみに囚われていた昨日と、悔やんでも悔やみきれない今日と、心の変転模様にあっても同じ自分・・・自分以外の何者でもない自分・・・動かそうとしても動かせない自分という存在。一日10万回の心臓の鼓動が煩わしい。私の命の鼓動は何処からきているのか?宇宙の鼓動と共鳴しているのだろうか・・・月の向こう、火星に連なる太陽系のそのまた向こう・・・漆黒の闇に心の鼓動だけが響いている、そんなところに自分の何もかもを葬ってしまいたい。私の捨てられた心の墓標が宇宙空間に彷徨っている。自己矛盾の相克、心の葛藤に打ちのめされるのが自分なら、打ちのめしているのも自分だ。滑稽だね、笑っておくれではないか・・・猫たちに「招き猫」の芸を仕込みたい。さあ、いらっしゃい!猫族八匹そろってのお出迎えだ。疫病神は要らないよ。幸運だけを呼び寄せる招き猫だ。今夜はやけに冷える・・・ストーブの前で固まって眠っている猫たちに、そんな芸を仕込むのは無理というもの・・・ゆっくりおやすみ・・・眠れない夜に、ぐっすり眠っている猫を眺めながら・・・心の軌道を修正しようとしている。
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