今日で急ぎの仕事は終わる・・・予定だ。冷たい風が工場内に吹き込む現場での作業、雨が漏るところだけでも補修したい。が、先立つものがない。自分で修理すべく、少しずつ補修材料を購入してはいるが・・・いつのことになるやら。このところの風で、また塀のトタン板が剥がれ始めている。今日も朝から西よりの風が吹き込んでいる。山越えの冷たい空っ風だ。さすがの猫族たちもコタツの上で丸くなっている。コタツの中に入ればよさそなものだが、コタツの中は更年期障害のクロが占拠してしまっている。彼女は他の猫が近付くと、威嚇して追い払っている。子猫たちがお乳を飲もうとしても、それを拒んで許さない。子育て放棄である。夜行性の猫族たちは、私が眠りにつこうとする時間帯に活発に動き回る。台所では食器の割れる音、廊下を疾走する子猫たちの足音・・・おまえたちは馬か?!と、毎日のように怒鳴りまくり、疲れている私がいるばかりだ。そんな騒音にも慣れなければ生きていけない。毎日が戦争のよう、それでも猫は可愛い、自分の空腹を忘れるほどに、彼らの餌は忘れない。キャットフードに魚の缶詰二種類、それに新鮮な水、浴室のザリガニには温かい水を補給している。ザリガニはまだ生きている。そして私も・・・かろうじて・・・待ってはくれない仕事を前に、今日も戦闘開始だ。
13時現在、最後の仕上げを完了した・・・つもりでいた。細心に細心の注意を払いながらの仕上げに、見事に垂れが生じた。すぐ手直しすることは出来ない。乾燥するまで、待たなければならない。待つさ、何度でもやり直すさ・・・その繰り返しだ。これが私の仕事だ。明日、完成品を監督に引き渡すまで、まだ時間はある。やり直しは垂れを生じた部分だけを補修するわけではない。部分のみを補修すれば、他の部分に粉が付着する。したがって全面をもう一度吹き直すわけだが、前の材料をそのまま使えば膜が厚くなる。これを溶剤で希釈して満遍なく吹きかける。希釈すればそれだけ垂れが生じやすくなる。こちらを立てればあちらが立たず、これを解決するのが職人の技というもの。こんなときに猫が道路に飛び出そうとする。彼らを屋根に誘導し、私もしばし屋根瓦に寝そべって空を眺める。屋根まで伸びたキュウイの蔓に実がなっている。その実を屋根の傾斜に転がすと、子猫たちが一斉にキュウイの実を追いかける。他愛のないものだ。オレはおまえたちと遊んでばかりはいられないんだ。キュウイの実をポケットに詰め込んで、仏壇に供えた。深夜、両親の位牌の前で、酒を飲んでは何度涙したことか。人生は夢のよう・・・死んでほしくなかった両親も今は位牌となって仏壇に収まっている。仏壇の前でボンヤリしている自分に気付く。疲れてはいられない、そんな暇はないはずだ。
15時30分現在、いま工場前にはパトカーが止まっている。30分ぐらい前に車が正面衝突をしたのだ。不幸中の幸いで、互いに鞭打ち症ぐらいで済んだようだ。問題なのは事故車の持ち主で、さっきまで怒号が飛び交っていた。醜いものだ。過失の有無は警察の取り調べの段階で決まる。何も道路上でいがみ合うこともあるまい。行き交う車が我が社の入り口まで左折してくる。それでないと通過できないのだ。ちょうど私が仕上げの段階まで達していた時で、事故の衝撃音で一瞬作業の手が止まってしまった。そのまま仕事を続けなければ材料が固まってしまうので、一気に仕上げたが・・・怒号が飛び交った時点でこっちまで嫌な気持ちにさせられた。これだけ周囲に迷惑をかけながら、憎しみをあらわにして言い争うばか者よ・・・命が助かっただけありがたく思えないか?まがり間違えば我が社の工場に突入しかねなかった事故のこと、私は神に感謝したいくらいだ。神様がいればの話だが・・・で、仕事は終わった。とんだハプニングの中での完成だったが、とにかく終わった。自分でも言うのもなんだが、素晴らしい出来だと思う。事故の当事者たちは、これから警察の取調べにも「自分に過失はなかった」と互いに主張を譲ることはないのだろう。人類に戦争が絶えないわけだ。警察官の笛の音がしている。車の流れを誘導しているらしい。コタツの上では何処吹く風の猫族八匹すべて揃って寝入っている。私はといえば、ワインで仕事の完成をひとり祝っている。やるだけのことはやった。
【視聴予定】
■17:30-18:24 TBSテレビ 報道特集 処刑は…?劇場占拠の深層▽対決有明海の今
■21:00-21:50 NHK総合 スペシャル あなたの夢は何ですか▽将来探す17歳▽天才外科医・若き起業家と感動の対面
■22:30-24:45 フジテレビ EZ!TV 北朝鮮に30年拉致された男告白ヤミ市場、米、電力…知られざる困窮事情▽320万人乗降客を狙え実録・新宿駅ビル戦争4人の男たち舞台ウラ
|