北朝鮮の核開発動向
(2002/10/16-10/18)
「核保有、北朝鮮高官層の常識」 亡命の黄元書記
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記の元側近で、労働党書記当時の97年に韓国に亡命した黄長(ファン・ジャン・ヨプ)氏は18日発売の雑誌「月刊中央」11月号でのインタビューで、北朝鮮の核保有問題について「北朝鮮の高官層では常識になっている」と述べ、保有済みとの認識を明らかにした。それ以上の具体的な言及はなかった。
黄氏はまた、金総書記が日朝首脳会談で日本人拉致事件を一部特殊機関の責任としたことに対し、「北では、一人の人間が銃を1発撃つことでも、金正日の小切手(許可の意)がなければ、できない」と語り、金総書記が拉致事件を知らないはずはないと考えていることを示した。
ウラン濃縮装置「未稼働」と北朝鮮が主張 米消息筋
米政府が北朝鮮の核兵器開発を明らかにした問題で、北朝鮮は今月初めに平壌であった米朝高官協議の席上、第三国から購入したウラン濃縮装置を「まだ稼働させていない」と米国に主張していたことが17日、わかった。米政府に近い消息筋が語った。
同筋によると、米朝高官協議で、姜錫柱・第1外務次官はケリー国務次官補にウラン濃縮装置を購入、所有していることを認めたが、稼働については否定した。北朝鮮は、米中央情報局(CIA)が入手した同装置の通関書類などをケリー次官補から突きつけられ、購入を認めたという。
米政府は16日に国務省が発表した声明で「稼働」の有無には触れず、所有していること自体が94年の米朝枠組み合意に違反しているとの立場だ。
一方、北朝鮮の国連代表部筋は17日、国務省の声明を「大筋で事実だと認識している」と述べ、ウラン濃縮装置を購入したことで「核兵器開発計画」を進めていると米政府に見なされていることを容認した。
しかし、「枠組み合意を破ったのは米国のほうが先だ」とも指摘。ブッシュ政権が昨年6月に対北朝鮮政策を見直し、枠組み合意では義務づけられていない国際原子力機関(IAEA)の即時査察の受け入れを迫ったことを非難した。
北朝鮮のウラン濃縮装置、パキスタンが供給 米紙報道
米政府が明らかにした朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発計画について、18日付のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は、パキスタンが主要な装置の供給者になっていると米国の情報機関が結論づけた、と報じた。米政府高官らの話として伝えた。
同紙によると、両国は90年代後半から北朝鮮のミサイルとパキスタンの核開発の関連装置などの物々交換を始めた。装置の中には核兵器開発に必要なウラン濃縮用のガス遠心分離器も含まれていた、という。
在米パキスタン大使館の報道官は、同紙に「核技術も知識も輸出したことはない。まったく間違っている」と記事の内容を否定したという。
関連装置購入情報、米つかむ 核開発の証拠つきつける
北朝鮮が核開発計画を認めたと米政府が発表した問題で、米朝関係筋は17日、米国が北朝鮮に核開発計画を認めさせた端緒は、高濃縮ウランの生産に絡む3〜5メートル四方の装置の購入を米国の情報機関がつかんだことだったと語った。
同筋によると、今月初めに平壌を訪問したケリー国務次官補は初日の米朝協議で、この装置を北朝鮮が購入した証拠を突きつけた。北朝鮮は否定したが、翌日に一転、金正日総書記の側近の姜錫柱・第1外務次官が認めた。ただ、同筋は「核兵器そのものをつくるための設備や装置の存在を米政府が確認したわけではない」と話している。
一方、17日付のUSAトゥデー紙は「証拠」が核兵器に使うためのウラン濃縮に必要な「遠心分離器」という専門家の見方を伝えた。
米国務省は16日に発表した声明の中で、北朝鮮が「核兵器の開発計画」を進めているとの情報を「最近」つかんだ、と説明。CNNテレビは「この夏のことだった」としている。
金大統領、「非常に深刻な問題」 北朝鮮核開発
韓国大統領府が17日明らかにしたところによると、金大中大統領は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発計画について「非常に深刻な問題だと受けとめている。どんな場合でも、北朝鮮の核開発は容認できない」と語った。
北朝鮮の核施設、寧辺が拠点 プルトニウム隠し持つ?
米カーネギー国際平和財団などの資料によると、北朝鮮の核開発は50年代早々に始まったとみられるが、開発疑惑が問題になったのは80年代に入ってからだ。米情報機関は北朝鮮の核開発について、核兵器1、2個分のプルトニウムを実験炉から抽出し、隠し持っている疑いが強いとみている。
平壌の北約90キロにある寧辺(ヨンビョン)の放射化学研究所が拠点で、5メガワット級の実験用原子炉のほか、建設途中の50メガワット級の大型原子炉、使用済み核燃料再処理施設、燃料棒製造工場、燃料貯蔵施設、研究用原子炉などの施設がある。94年の枠組み合意でその大半の使用、建設が凍結された。使用済み核燃料には核兵器5、6個分にあたる25〜30キロのプルトニウムがあるとみられるが、枠組み合意に基づき米朝両政府は00年までに密封作業を終えた。
寧辺の北西約20キロの泰川(テ・チョン)にある200メガワット級の原子炉も同合意で建設を凍結した。同約40キロの金昌里(クムチャンニ)では、地下に原子炉や再処理施設を建設しようとした疑いが浮上したが、交渉の末、北朝鮮は00年までに2回、米政府の立ち入り訪問を認めた。
寧辺では、94年の米朝枠組み合意がなければ、大型原子炉が完成し、年間で核兵器50個分のプルトニウム生産が可能だった。その場合、イラン、リビア、シリアなどにプルトニウムが渡る可能性があったとしている。また、01年に出た米議会報告書は、北朝鮮がプルトニウムをロシアから密輸する可能性にも触れ、実際に密輸を試みた疑いのある事例も指摘している。
KEDOは情勢を注視 北朝鮮核開発
ニューヨークに本部がある朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)には16日夜(日本時間17日朝)段階で、米政府から「北朝鮮が核開発」の公式通知はない。本部には若手職員が1人残り、米政府の発表などの動きをメディアを通じてチェックしている状態だ。
KEDOは94年の枠組み合意に基づき、北朝鮮が黒鉛炉建設を中止する見返りとして軍事利用のしにくい軽水炉を建設し、その完成まで代替エネルギー源の重油を提供している。枠組み合意自体は、それ以前の「核兵器開発計画」を事実上不問に付す形で成立したが、合意後に核兵器の開発を図っていたとなれば、KEDOが受け持つ事業の土台が崩れることになる。8月に軽水炉の建屋工事着手まで計画が進み、KEDOにはほっとした空気が流れていただけに、衝撃は一層大きいだろう。
ただ、今後どういった対応をとるかは米国、日本、韓国、欧州連合(EU)で構成する理事会が決めることになり、当面は米政府高官による各国への説明とその反応を注視する構えだ。
北朝鮮、核開発の継続認める 米国務省が発表
米国務省は16日、ケリー国務次官補が今月初めに朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪れた際、北朝鮮側が、高濃縮ウラン施設建設などの核兵器開発を継続していることを認めていたと発表した。米政府は、北朝鮮の核開発凍結を決めた米朝枠組み合意や核不拡散条約(NPT)への違反にあたるとして、北朝鮮に開発計画の中止を求める。北朝鮮は従来の核開発否定発言を翻し、94年以来米朝関係の土台だった枠組み合意を「無効」とみなした。
米国はイラクに対する武力攻撃の環境を整えているさなか、新たに浮上した北朝鮮の核問題にどう取り組むのか難しいかじ取りを迫られる。今月下旬に再開する日朝交渉への影響も避けられない。
国務省筋によると、ケリー次官補らが今月3〜5日に平壌で行った米朝高官協議の初日に、米国側が北朝鮮側に核開発の「証拠」を突きつけたところ、翌日の本格協議で、金正日総書記の側近で外交を取り仕切る姜錫柱・第1外務次官が「高濃縮ウランを抽出できる装置を購入した。いまも所有している」と認めたという。
国務省が16日に発表したバウチャー報道官名による声明によると、この席で北朝鮮側は、米側を非難して米朝合意が無効であると宣言した。また、CNNによると、米政府も北朝鮮側に、核開発は米朝合意に違反していると指摘した上で、同合意は無効になったと伝えたという。
声明は、米国が同盟国とともに、北朝鮮との関係を改善させる大胆なアプローチを取ってきたと強調。しかし、北朝鮮が大量破壊兵器の開発やミサイルの開発・輸出などの問題の姿勢を転換するのと引き換えに北朝鮮国民の生活改善を支援するこのアプローチは「核兵器開発への懸念に照らしてもはや追求できなくなった」としている。
米政府は、この問題について議会指導者との協議に入るとともに、国務省のボルトン次官とケリー次官補を日本、韓国に派遣することを明らかにした。この日午後、アーミテージ国務副長官と会談し、この問題の説明を受けた橋本龍太郎元首相によると、ケリー氏は20日に東京入りし、日本側と協議する。米政府は、同盟国と共同で核開発断念を迫る構えだ。
今回の北朝鮮の対応は、従来の疑惑否定路線を百八十度ひっくり返すもので、対決姿勢に出て相手を対話に引き出す北朝鮮独特の「瀬戸際外交」ではないかとの見方も出ている。米側は対応を協議するため、北朝鮮の発言をこの日まで伏せていたものとみられる。外交筋によると、この情報はケリー氏の訪朝直後に日韓両政府に伝えられていた。
米政府高官は依然「話し合いは続ける」と述べているが、北朝鮮が核開発を認めたことで、これまでの米朝枠組み合意など、北朝鮮に対して進めてきた関与政策の前提が覆ったことになる。日米韓3国は、北朝鮮について安全保障上の懸念を共有する原則を再三確認しており、日韓の北朝鮮外交に影響を与えることは必至だ。9月の歴史的な日朝首脳会談で進展を見た日朝間の対話にも、ブレーキがかかる可能性が出てきた。