北朝鮮の核開発動向
(2002/10/16-10/23)
核問題など対話で解決 南北朝鮮閣僚級会談で合意
平壌で開かれていた韓国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との第8回閣僚級会談は23日未明、北朝鮮の核開発計画を念頭に「南北は核問題をはじめとしたすべての問題を対話によって解決するよう積極的に協力する」などとした8項目の合意をまとめた共同報道文を発表して閉会した。南北朝鮮間の縦断鉄道・道路の連結工事促進など合意済みの協力・交流事業を確認し、次回会談を韓国大統領選後の来年1月にソウルで開催することも盛り込んだ。
北朝鮮が核開発のためのウラン濃縮関連施設の導入を認めた10月初めの米朝高官協議以降、今回の南北朝鮮閣僚級会談は外部との初の公式協議の場で、北朝鮮が核問題でどういう立場を示すか注目されていた。
南北間では91年合意の基本合意書で大量破壊兵器の段階的削減を盛り、同時期の朝鮮半島非核化共同宣言で核放棄をうたった。しかし、00年6月の南北首脳会談を受けて始まった南北閣僚級会談の場で、核問題解決が合意文に明記されたのは初めてだ。
核問題の対話解決を南北間で確認し、合意文に明記したことで、26日にメキシコで行うAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会合の際の日米韓首脳会談や、29日からのクアラルンプールでの日朝国交正常化交渉を前に、北朝鮮が核問題のこれ以上の深刻化を望まず、対話の姿勢を内外にいったん誇示しようとしたものとみられる。米国中心の国際的圧力を当面かわそうとの狙いもありそうだ。
今回の合意では、朝鮮戦争時に行方不明になったままの元兵士や民間人について、生死や所在の確認をするための南北赤十字組織間の事業を支援することも確認した。ただ、日朝間で日本人拉致事件の究明作業が本格化するのに伴って、韓国内でも、北朝鮮に抑留・拉致されたとみられる韓国人被害者の家族らが問題解決を強く求めているが、この問題での言及はなかった。
鉄道・道路の連結では、西部の京義線はまず北朝鮮・開城に造成予定の工業団地まで、東部の東海線では北朝鮮・金剛山地域をそれぞれ1次的につなげるようにした。また、双方領海内を民間船舶が安全に通航できるようにする海運合意書を作る実務協議を11月に開くことなどでも合意した。
「米特使は核問題で脅迫」 北朝鮮・労働新聞が非難
朝鮮中央通信によると、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の労働党機関紙、労働新聞は22日「米国は傲慢(ごうまん)な強権政策を放棄すべきだ」との記事を掲げ「ケリー米大統領特使は我々の核、ミサイル問題と通常兵器削減問題、人権問題まで持ち出し、米国の要求を受け入れるよう脅迫した」と非難した。朝鮮通信(東京)が伝えた。
一方、平壌放送は同日、北朝鮮が核凍結する代わりに軽水炉を提供するとした「枠組み合意」の履行を、前日に続いて米国に呼びかけ、北朝鮮として合意を即時破棄する考えのないことを強調した。核開発問題に国際社会が深い憂慮を示していることに加え、26日に日米韓首脳が北朝鮮政策を最終調整するのを前に、北朝鮮が軌道修正を試みた可能性もある。
労働新聞は、米議会のイラク決議を例に挙げ「米国は自分たちが望むことは世界のすべてが無条件で執行しなければならないという極めて傲慢な態度をとっている」と指摘した。
「金総書記に武装解除を説得」米大統領
ブッシュ米大統領は21日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が核開発計画を認めた問題について「金正日(総書記)に武装解除(核兵器開発の放棄)をするよう説得しなければならない」と語った。「(東アジア)地域の友人やその他の国々と団結し、凶悪な兵器の不拡散に取り組む好機だと思う」との見方も明らかにした。この問題で大統領自身が発言したのは初めて。イラクへの対応とは違い、外交努力で解決をめざす姿勢を明確にした。
ホワイトハウスで記者団に語った。25日にテキサス州クロフォードの私邸に江沢民国家主席を迎える米中首脳会談でも、この問題を協議すると表明したうえで「21世紀の真の脅威にどう取り組むべきか、という議論を通じて米中関係を新たな段階へと進めることができるよう期待している」と語った。
大統領は月末にメキシコであるアジア太平洋経済協力会議(APEC)でも「この問題は重要な議題だ」と語った。
一方、米政府高官は同日、北朝鮮ナンバー2の金永南・最高人民会議常任委員長が、米国の出方次第では対話解決の用意があるとの立場を表明したことについて「それが彼のいつものやり方だ」と批判。「米国をはじめ世界の平和を愛する国々が、北朝鮮に核開発計画を直ちに放棄するよう求めている」と語り、核開発の中止が先決だとの立場を強調した。
北朝鮮とパキスタン70年代に接触、核とミサイル交換か
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)にパキスタンが核開発の主要な部品を供給したと報じられたのを受けて、パキスタンのムシャラフ大統領はこのほど、記者会見で「両国間の核協力は存在しない」と否定した。しかし、核を持つパキスタンとミサイルを持つ北朝鮮の軍事協力の長い歴史を考えれば、何らかの取引はあったと考えるのが自然だといえる。
両国間の軍事的な接触が始まったのはインドが核実験を実施した70年代前半と言われる。98年の最初の核実験に先立ち、パキスタンは同年春に射程1500キロの中距離ミサイル「ガウリ」の最初の実験を行っているが、軍事筋によれば、ミサイル製造のもとになる技術を供与したのが北朝鮮だった。
このミサイルは「ノドン」の改良型といわれ、米政府はこの実験直後、北朝鮮とパキスタンの双方に対し、ミサイル取引を理由に制裁を発動した。パキスタンがその後実験を行った核搭載可能な「シャヒーン」は、中国系の技術だと見られている。
パキスタンの核・ミサイル開発の中心、イスラマバード北郊のカフタ研究所周辺では、故金日成主席のバッジをつけた北朝鮮関係者の往来が頻繁に目撃されている。カフタ研究所の所長でパキスタンの「核開発の父」と呼ばれるアブドル・カーン博士は、今回北朝鮮への技術移転の中心になったとされるウラン濃縮用の遠心分離機開発の専門家だ。
89年にソ連が隣国アフガニスタンから撤退した後、90年代は西側からの武器供与や経済援助も滞り、パキスタンの経済状態は最悪だった。特に98年の核実験で各国が制裁を発動してからは外貨不足が深刻化し、銀行の外貨引き出しを凍結するなど破綻(はたん)状態に陥った。ミサイル技術供与に見合う対価をどう支払ったのかは大きな謎だ。
イスラマバードの住宅街にある北朝鮮大使館には、常時25人程度のスタッフが居住している。大半は軍事関係者といわれる。外交筋によれば、99年にムシャラフ政権が無血クーデターによって誕生して以降も軍服姿の北朝鮮軍高官の来訪は続いている。「両国の経済状態を考えれば、ミサイルと核技術を交換したと考えるのが自然だ」(外交筋)との指摘もある。
「核保有、北朝鮮高官層の常識」 亡命の黄元書記
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記の元側近で、労働党書記当時の97年に韓国に亡命した黄長(ファン・ジャン・ヨプ)氏は18日発売の雑誌「月刊中央」11月号でのインタビューで、北朝鮮の核保有問題について「北朝鮮の高官層では常識になっている」と述べ、保有済みとの認識を明らかにした。それ以上の具体的な言及はなかった。
黄氏はまた、金総書記が日朝首脳会談で日本人拉致事件を一部特殊機関の責任としたことに対し、「北では、一人の人間が銃を1発撃つことでも、金正日の小切手(許可の意)がなければ、できない」と語り、金総書記が拉致事件を知らないはずはないと考えていることを示した。
ウラン濃縮装置「未稼働」と北朝鮮が主張 米消息筋
米政府が北朝鮮の核兵器開発を明らかにした問題で、北朝鮮は今月初めに平壌であった米朝高官協議の席上、第三国から購入したウラン濃縮装置を「まだ稼働させていない」と米国に主張していたことが17日、わかった。米政府に近い消息筋が語った。
同筋によると、米朝高官協議で、姜錫柱・第1外務次官はケリー国務次官補にウラン濃縮装置を購入、所有していることを認めたが、稼働については否定した。北朝鮮は、米中央情報局(CIA)が入手した同装置の通関書類などをケリー次官補から突きつけられ、購入を認めたという。
米政府は16日に国務省が発表した声明で「稼働」の有無には触れず、所有していること自体が94年の米朝枠組み合意に違反しているとの立場だ。
一方、北朝鮮の国連代表部筋は17日、国務省の声明を「大筋で事実だと認識している」と述べ、ウラン濃縮装置を購入したことで「核兵器開発計画」を進めていると米政府に見なされていることを容認した。
しかし、「枠組み合意を破ったのは米国のほうが先だ」とも指摘。ブッシュ政権が昨年6月に対北朝鮮政策を見直し、枠組み合意では義務づけられていない国際原子力機関(IAEA)の即時査察の受け入れを迫ったことを非難した。
北朝鮮のウラン濃縮装置、パキスタンが供給 米紙報道
米政府が明らかにした朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発計画について、18日付のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は、パキスタンが主要な装置の供給者になっていると米国の情報機関が結論づけた、と報じた。米政府高官らの話として伝えた。
同紙によると、両国は90年代後半から北朝鮮のミサイルとパキスタンの核開発の関連装置などの物々交換を始めた。装置の中には核兵器開発に必要なウラン濃縮用のガス遠心分離器も含まれていた、という。
在米パキスタン大使館の報道官は、同紙に「核技術も知識も輸出したことはない。まったく間違っている」と記事の内容を否定したという。
関連装置購入情報、米つかむ 核開発の証拠つきつける
北朝鮮が核開発計画を認めたと米政府が発表した問題で、米朝関係筋は17日、米国が北朝鮮に核開発計画を認めさせた端緒は、高濃縮ウランの生産に絡む3〜5メートル四方の装置の購入を米国の情報機関がつかんだことだったと語った。
同筋によると、今月初めに平壌を訪問したケリー国務次官補は初日の米朝協議で、この装置を北朝鮮が購入した証拠を突きつけた。北朝鮮は否定したが、翌日に一転、金正日総書記の側近の姜錫柱・第1外務次官が認めた。ただ、同筋は「核兵器そのものをつくるための設備や装置の存在を米政府が確認したわけではない」と話している。
一方、17日付のUSAトゥデー紙は「証拠」が核兵器に使うためのウラン濃縮に必要な「遠心分離器」という専門家の見方を伝えた。
米国務省は16日に発表した声明の中で、北朝鮮が「核兵器の開発計画」を進めているとの情報を「最近」つかんだ、と説明。CNNテレビは「この夏のことだった」としている。
金大統領、「非常に深刻な問題」 北朝鮮核開発
韓国大統領府が17日明らかにしたところによると、金大中大統領は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発計画について「非常に深刻な問題だと受けとめている。どんな場合でも、北朝鮮の核開発は容認できない」と語った。
北朝鮮の核施設、寧辺が拠点 プルトニウム隠し持つ?
米カーネギー国際平和財団などの資料によると、北朝鮮の核開発は50年代早々に始まったとみられるが、開発疑惑が問題になったのは80年代に入ってからだ。米情報機関は北朝鮮の核開発について、核兵器1、2個分のプルトニウムを実験炉から抽出し、隠し持っている疑いが強いとみている。
平壌の北約90キロにある寧辺(ヨンビョン)の放射化学研究所が拠点で、5メガワット級の実験用原子炉のほか、建設途中の50メガワット級の大型原子炉、使用済み核燃料再処理施設、燃料棒製造工場、燃料貯蔵施設、研究用原子炉などの施設がある。94年の枠組み合意でその大半の使用、建設が凍結された。使用済み核燃料には核兵器5、6個分にあたる25〜30キロのプルトニウムがあるとみられるが、枠組み合意に基づき米朝両政府は00年までに密封作業を終えた。
寧辺の北西約20キロの泰川(テ・チョン)にある200メガワット級の原子炉も同合意で建設を凍結した。同約40キロの金昌里(クムチャンニ)では、地下に原子炉や再処理施設を建設しようとした疑いが浮上したが、交渉の末、北朝鮮は00年までに2回、米政府の立ち入り訪問を認めた。
寧辺では、94年の米朝枠組み合意がなければ、大型原子炉が完成し、年間で核兵器50個分のプルトニウム生産が可能だった。その場合、イラン、リビア、シリアなどにプルトニウムが渡る可能性があったとしている。また、01年に出た米議会報告書は、北朝鮮がプルトニウムをロシアから密輸する可能性にも触れ、実際に密輸を試みた疑いのある事例も指摘している。
KEDOは情勢を注視 北朝鮮核開発
ニューヨークに本部がある朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)には16日夜(日本時間17日朝)段階で、米政府から「北朝鮮が核開発」の公式通知はない。本部には若手職員が1人残り、米政府の発表などの動きをメディアを通じてチェックしている状態だ。
KEDOは94年の枠組み合意に基づき、北朝鮮が黒鉛炉建設を中止する見返りとして軍事利用のしにくい軽水炉を建設し、その完成まで代替エネルギー源の重油を提供している。枠組み合意自体は、それ以前の「核兵器開発計画」を事実上不問に付す形で成立したが、合意後に核兵器の開発を図っていたとなれば、KEDOが受け持つ事業の土台が崩れることになる。8月に軽水炉の建屋工事着手まで計画が進み、KEDOにはほっとした空気が流れていただけに、衝撃は一層大きいだろう。
ただ、今後どういった対応をとるかは米国、日本、韓国、欧州連合(EU)で構成する理事会が決めることになり、当面は米政府高官による各国への説明とその反応を注視する構えだ。
北朝鮮、核開発の継続認める 米国務省が発表
米国務省は16日、ケリー国務次官補が今月初めに朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪れた際、北朝鮮側が、高濃縮ウラン施設建設などの核兵器開発を継続していることを認めていたと発表した。米政府は、北朝鮮の核開発凍結を決めた米朝枠組み合意や核不拡散条約(NPT)への違反にあたるとして、北朝鮮に開発計画の中止を求める。北朝鮮は従来の核開発否定発言を翻し、94年以来米朝関係の土台だった枠組み合意を「無効」とみなした。
米国はイラクに対する武力攻撃の環境を整えているさなか、新たに浮上した北朝鮮の核問題にどう取り組むのか難しいかじ取りを迫られる。今月下旬に再開する日朝交渉への影響も避けられない。
国務省筋によると、ケリー次官補らが今月3〜5日に平壌で行った米朝高官協議の初日に、米国側が北朝鮮側に核開発の「証拠」を突きつけたところ、翌日の本格協議で、金正日総書記の側近で外交を取り仕切る姜錫柱・第1外務次官が「高濃縮ウランを抽出できる装置を購入した。いまも所有している」と認めたという。
国務省が16日に発表したバウチャー報道官名による声明によると、この席で北朝鮮側は、米側を非難して米朝合意が無効であると宣言した。また、CNNによると、米政府も北朝鮮側に、核開発は米朝合意に違反していると指摘した上で、同合意は無効になったと伝えたという。
声明は、米国が同盟国とともに、北朝鮮との関係を改善させる大胆なアプローチを取ってきたと強調。しかし、北朝鮮が大量破壊兵器の開発やミサイルの開発・輸出などの問題の姿勢を転換するのと引き換えに北朝鮮国民の生活改善を支援するこのアプローチは「核兵器開発への懸念に照らしてもはや追求できなくなった」としている。
米政府は、この問題について議会指導者との協議に入るとともに、国務省のボルトン次官とケリー次官補を日本、韓国に派遣することを明らかにした。この日午後、アーミテージ国務副長官と会談し、この問題の説明を受けた橋本龍太郎元首相によると、ケリー氏は20日に東京入りし、日本側と協議する。米政府は、同盟国と共同で核開発断念を迫る構えだ。
今回の北朝鮮の対応は、従来の疑惑否定路線を百八十度ひっくり返すもので、対決姿勢に出て相手を対話に引き出す北朝鮮独特の「瀬戸際外交」ではないかとの見方も出ている。米側は対応を協議するため、北朝鮮の発言をこの日まで伏せていたものとみられる。外交筋によると、この情報はケリー氏の訪朝直後に日韓両政府に伝えられていた。
米政府高官は依然「話し合いは続ける」と述べているが、北朝鮮が核開発を認めたことで、これまでの米朝枠組み合意など、北朝鮮に対して進めてきた関与政策の前提が覆ったことになる。日米韓3国は、北朝鮮について安全保障上の懸念を共有する原則を再三確認しており、日韓の北朝鮮外交に影響を与えることは必至だ。9月の歴史的な日朝首脳会談で進展を見た日朝間の対話にも、ブレーキがかかる可能性が出てきた。