02/09/07 (土)
松葉杖生活、短期(?)決戦のための食糧
 チロ2号がまだ帰らない。この猫は私に最もやさしく接してくれる。戯れて私を引っ掻いても、爪を引っ込めているので、それが分かる。私に撫でられると嬉しいらしく、喉をゴロゴロ鳴らすのであった。これだけ多く猫を飼っていれば、何匹かは死んでしまうのは仕方がない。自然淘汰として諦めるしかない。諦めきれないのは、自動車事故などで死ぬ場合である。猫を轢いた人間も気にかけず、むしろ迷惑がって猫の死体は捨て置かれることが多い。後続車に何度も轢かれて毛皮だけになった猫もいる。車の持ち主からすれば、私のような野良猫に餌を与えるような者こそ、迷惑なのだろう。迷惑がられるのには慣れている私としては、私自身が野良猫のようなものと考えている。私も捨て置かれて当然の人間なのだ。野垂れ死にこそ私の望むところだ。人間社会の欺瞞にはほとほと愛想が尽きている。それでも人間である限り、そうした欺瞞に無関心ではいられない。地球が本当の意味で自然に戻れるときは、その害虫であるところの人類が絶滅したときだと・・・皮肉ではなく、そう確信する。
 松葉杖なしでは移動することが出来なくなった今、私は障害者となったわけだ。この障害者は頑固者で、医者嫌いも徹底している。待ってはくれない仕事に引きずられながら痛みを堪えている。大地にへばり付き、時に悲痛な声をあげ、生きる意味を模索する。私に松葉杖がいらなくなったら、真っ先に行方不明の猫を探し回ることだろう。

 午前八時現在、突然チロ2号が帰ってきた。いつもより大きな鳴き声をあげて、今貪るように餌を食べている。どうやら親猫クロが探し当てたらしい。これで八匹揃った。こんな時には足の痛みも忘れる。夜は足の痛みで殆ど眠れなかった。足首がパンパンに腫れあがっている。安静にしなければならないところだが、食事をしないわけにもいかず、台所でご飯に水をぶっかけて済ませた。

 まだ配管の見積もり作成の仕事があり、午後から関連書類の照合をすることにした。監督は急いでいるようだが、見積もりの時点で気を抜くわけにはいかない。かつて、急いで作成して何度も後悔することがあった。赤字になるのだけは避けなければならない。職人の工賃、材料代、作業日程、正確な計測から妥当な工事費を算出していく。金額の大きさにつられ、どんぶり勘定で失敗した例も幾度か見てきている。ある同業者は数百万という金額に飛びつき、私に手伝ってくれと泣きついてきたことがあった。徹夜の連続で職人たちを疲れさせ、作業中に「赤字だ」を繰り返す社長・・・この一件で、地元の職人たちは二度とその業者を手伝うことはなくなった。多額の工事費に欲を出したばかりの悲劇である。まず見積もりの段階で仕事の全容は把握すべきであり、仕事を終えてから、赤字だからといって追加予算を請求するわけにはいかない。規模の大きな仕事は、それが現場で作業する末端の業者に辿りつくまでには、各社が仲介マージンを抜いていることを考慮しておくことだ。
 17時現在、先ほど見積書の作成が完了、あとは月曜に妹が清書するだけだ。私の字は性格同様に癖があり、そのままでは読みにくくて提出できないのだ。中でもゼロを丸く書くことが苦手で、以前の見積書を見ても三角になっていたりする。

 一難去ってまた一難、猫たちに餌を与えたばかりなのに、今度は私のカップヌードルの容器を齧りだした。彼らは私が動けないことを承知で、堂々と無法の限りを開始したのだ。書類の入った箱もこじ開けようとしている。特にティッシュの入った箱は彼らのお気に入りで、爪で引っ掻いてはティッシュを引き抜く。毎朝やってくる妹はそんな惨状を目の当りにして唖然とするのが常になった。今もチロ2号が私の傍らに来たかと思えば、オシッコをしていった。やけにチロ2号の体が暖かいと感じたのはオシッコだった。衣類から布団までオシッコの臭いが染み付いてしまっている。猫はシツケられないという。叱りつければ、猫は飼い主が自分を嫌っていると判断する。つまり自分が悪いことをしたとは思わない。犬のように飼い主に依存することなく、猫は最初から人間を共生関係の相手とはみなさない。自分勝手な猫の習性をよく理解していないと「この恩知らず!」と罵ることになる。それでいて擦り寄ってくるのは、私に母性を感じているらしいのだ。彼らの安全地帯を確保してやっている限り、私は擬似母親として慕われるだろう。私が死ねば、彼らは他に安全を確保してくれる飼い主をみつけるまでだ。もっとも野良猫なれば飼い主など必要がないのかも知れない。とかなんとか書いている間に、また猫が傍でオシッコをしていった。笑うしかない、ハハハ困ったもんだ。この恩知らず!

【視聴予定】
■21:15-22:00 NHK総合 スペシャル テロからアフガンへ▽敵か味方か・攻撃・新政権成立▽政府要人が語る舞台裏 
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